研究課題/領域番号 |
22K14680
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 金沢大学 (2023) 京都大学 (2022) |
研究代表者 |
松本 晃 金沢大学, 薬学系, 助教 (60880739)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ラジカル前駆体 / 光レドックス触媒 / リンイリド / 連続光触媒反応 / 水素原子移動 / ラジカルカチオン / 有機ケイ素過酸化物 / 光酸化還元触媒 / ラジカル反応 / 光還元剤 / 炭素ラジカル / ケイ素ラジカル |
研究開始時の研究の概要 |
ラジカル種を活用する有機合成において、望みのラジカル種を効率的に発生させるラジカル前駆体の開発は重要である。本研究では、有機ケイ素過酸化物の構造的特徴に着目し、光酸化還元触媒による一電子酸化および一電子還元の両方に活性なラジカル前駆体の開発に取り組む。これにより、複数の活性化手法を駆動力として利用でき、高い汎用性を有するラジカル前駆体の創出と、その分子設計指針の確立を目指す。また、開発したラジカル前駆体を種々の触媒的分子変換に利用することで、本研究のラジカル反応化学における汎用性ならびに有用性を実証する。
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研究実績の概要 |
前年度までの研究で、有機ケイ素過酸化物からアルキルラジカルを発生させるための多様な活性化手法(遷移金属触媒・可視光レドックス触媒・光還元剤)を確立し、ラジカル前駆体としての高い汎用性を実証した。その過程で、リンイリド化合物が反応条件に応じて一電子酸化および一電子還元の両方に対して活性を示すことを見いだしていたため、今年度はこの発見にもとづくリンイリドの機能開拓に焦点を絞り、新たなラジカル前駆体としての利用法を開発すべく研究を行った。その結果、反応の第一段階でリンイリドを酸化的に活性化し、第二段階では還元的に活性化するという従来にない形式の連続ラジカル反応を開発した。入手容易な二種類のアルケンと市販のリンイリドを出発物とする本反応は、これらをワンポットで段階的に連結し、有用な合成中間体である1,4-ジカルボニル化合物を効率的に得ることができる。種々の電気化学測定および分光分析による反応機構解析の結果、第一段階ではリンイリドの一電子酸化によってラジカルカチオン種が生じ、これがもう一分子のリンイリドの炭素-水素結合を開裂するという興味深い機構で反応が進行していることが分かった。これらの結果は、これまでWittig反応をはじめとする極性反応に用いられてきたリンイリドがラジカル反応においても多彩な反応性を示し、反応および分子構造の設計によって様々な利用法が考えられることを示唆するものである。実際に、種々のリンイリドがラジカル触媒として炭素-水素結合官能基化反応に利用できることが予備検討の結果から見いだされており、本研究最終年度で詳細な調査を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機ケイ素過酸化物をラジカル前駆体とするアルキルラジカル発生法に関して一定の成果が得られた事に加え、研究の過程で明らかとなったリンイリド化合物の振る舞いに高汎用性ラジカル種としての潜在性を見いだしたため、本研究の方針を変更し、リンイリド化合物の新機能開拓を目的として反応性の調査を行った。可視光照射下、ホルミル基によって安定化されたリンイリドに有機光レドックス触媒を作用させると、リンイリドから求核的なアシルラジカルが生じ、電子不足アルケンへのラジカル付加反応が円滑に進行した。反応機構解析の結果から、リンイリドの一電子酸化によって生じるラジカルカチオンがもう一分子のリンイリドのホルミル基から水素原子を引き抜くことでアシルラジカルが発生すると想定され、ラジカル反応におけるリンイリドの新たな反応性を明らかにすることができた。続いて、上記反応で得られたリンイリド生成物とブレンステッド酸から得られるホスホニウム塩に同様の光レドックス触媒を作用させることで、炭素-リン結合の還元的開裂を伴った求電子的なα-カルボニルラジカルの発生を試みた。検討の結果、ブレンステッド酸としてシュウ酸二水和物を用いることで目的の過程が良好に進行することが分かり、生じた求電子的ラジカルを不活性アルケンに付加させることで対応する生成物を得た。最後に、これら二つの反応をワンポットで段階的に行うための条件を確立し、リンイリドと二種類のアルケンを連結する連続ラジカル反応としてまとめることができた。また、機構解析の過程で明らかになったリンイリドの水素引き抜き特性から、これらの化合物が水素原子移動反応を介在する触媒としての可能性を見いだすことができた。既に予備検討の結果として、触媒量のリンイリドを用いた炭素-水素結合官能基化反応が良好に進行することを確認しており、今後さらなる機能追及の余地があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、ラジカル反応におけるリンイリドの機能開拓を推し進める。特に、今年度の研究で明らかになった水素原子移動触媒としての機能評価を重点的に行い、炭素-水素結合活性化を担う合成ツールとしての有用性を検証する。Wittig 試薬として古くから利用されているリンイリドは既に様々な合成法が確立されており、構成単位であるホスホニウムおよび電子求引性基は柔軟な構造修飾が可能である。このような他に類を見ない構造多様性をリンイリド触媒の強みと捉え、系統的な構造修飾による触媒ライブラリーを構築する事で、分子構造と物理化学的性質および触媒活性の相関を詳細に調べていく。これらの結果をもとに目的の反応に応じた最適構造を割り出し、触媒の失活や位置選択性といった水素原子移動過程における課題の克服に挑むとともに、多機能合成ツールとしてのリンイリドの特性を活かした分子変換手法の開発へ繋げていく。
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