研究課題/領域番号 |
22K14699
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
岡村 将也 神奈川大学, 化学生命学部, 助教 (90782251)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
|
キーワード | 人工光合成 / メソポーラスシリカ / 電気化学 / 触媒 |
研究開始時の研究の概要 |
金属酵素の触媒機能は、中心となる金属錯体の特性だけでなく、それを取り囲む反応場にも依存する。そのため、自在に制御可能な反応場を人工触媒系に導入することで、生体機能に匹敵する革新的な触媒材料の創製が期待される。そこで、本研究では、ITO電極上にシリカナノ薄膜を形成し金属錯体を固定化する。さらに、得られた電極上で錯体の周辺環境を制御し、電極界面に新たな反応場を創出することを目指す。
|
研究実績の概要 |
Al-SiO2薄膜の合成において、均一なメソ細孔を再現性良く得るための最適な反応条件を見出した。Si/Al比を変えてAl-SiO2薄膜を調製し、SEMとTEMで細孔構造を評価した結果、Si/Al = 96-9.6の範囲で均一な細孔構造を持つ薄膜が形成できることが確認された。形成されたAl-SiO2薄膜の物性評価を行ったところ、細孔径3.94 nm、比表面積568 m2/g、膜厚155±2.3 nmの値が得られた。 また、Al-SiO2薄膜の親・疎水性を評価するために、電極表面に滴下した水の接触角を測定した。その結果、未修飾ITO電極と比較して、Al-SiO2薄膜の表面末端に存在するSi-OH(シラノール基)に由来する親水的な挙動を確認した。次に、酸素発生触媒機能を有するRu錯体を固定化したところ、配位子に由来する疎水的な挙動を示したことから、金属錯体の固定化が示唆された。 固定化したRu錯体の酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリー(CV)測定で評価したところ、均一系溶液で観測されたRu(II/III)およびRu(III)/(IV)の電子移動に伴う酸化波に帰属されるピークを確認した。さらに、異なるpHのリン酸緩衝溶液でCV測定を行い、酸素発生触媒機能を評価した。その結果、未修飾ITO電極と比較して1.3 V付近から不可逆な電流値の増加を確認し、pHの上昇に伴い電流値が増加したことから、塩基性条件下でより効率的に酸素発生が進行することが明らかになった。次に、Ru酸素発生触媒を固定化した電極を用いて密閉セル内でリン酸緩衝溶液(pH = 7.5)中1.70 V (vs Ag/AgCl)を1時間印加したところ、酸素の発生が検出された。ファラデー効率は75.3%、TONは298.6と算出され、高い電流変換効率と触媒回転数を示すことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度に達成できなかった再現性の改善に取り組んだ。Al-SiO2薄膜の合成条件を最適化することで、均一な細孔構造を持つAl-SiO2薄膜を透明電極上に再現性よく形成することに成功した。さらに、得られたAl-SiO2薄膜の詳細な物性評価を行い、細孔径、比表面積、膜厚、親・疎水性などの特性を明らかにした。加えて、Ru錯体を固定化した電極の酸素発生触媒機能を定電位電解により評価し、その触媒性能を明らかにした。以上の結果から、本研究は当初の計画通りに順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
Al-SiO2薄膜のアルミニウム含有量をICP-MS測定により決定するため、最適化した条件を用いてより多くのサンプルを調製する予定である。これまでは1サンプルから得られるAl-SiO2薄膜の量が非常に少なく、一度の測定に数十枚のサンプルを使用しなければならなかったため、アルミニウム含有量を正確に決定することが困難であった。しかし、最適化した条件を用いることで、この問題を解決し、Al-SiO2薄膜の物性と触媒性能の相関を理解する上で重要な知見を得ることができると期待している。また、定電位電解により推定されたRu錯体の固定量が同様の錯体を別の手法で固定化した例と比べて1桁少ないことが判明したため、アルミニウム導入量を増やす方法を検討する。これにより、Ru錯体の固定量を増加させ、触媒性能の向上を目指す。 さらに、Ru酸素発生触媒の導入に加えて、光増感機能を有するカチオン性錯体の導入を行う計画である。これにより、光照射下での電気化学測定を通して光誘起電子移動の挙動を評価することができる。 以上の研究方針に基づき、Al-SiO2薄膜を用いた高効率な水の酸化触媒の開発と人工光合成システムの構築に向けた基盤技術の確立を目指す。
|