研究課題/領域番号 |
22K14705
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山本 翔太 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 高分子・バイオ材料研究センター, 研究員 (10785075)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | バイオ分析 / メカノバイオロジー / 光応答性足場材料 / バイオマテリアル / がん細胞 / ゲノム編集 / 細胞足場材料 / 光制御 / 細胞応答 |
研究開始時の研究の概要 |
生体内の細胞は、組織から化学・力学的な刺激を絶えず受け続ける環境に存在している。そのため生命現象を正確に理解するためには、生体内の出来事を生体外で再現できる材料の開発とその実験系の構築が必要である。そこで本研究では外部からの刺激によって表面のリガンド密度(化学因子)や弾性率(力学因子)を制御可能な生体内を模倣した細胞培養足場材料を開発し、細胞移動や浸潤などの動態変化中における機能発現や消失過程をバイオ分析により解析し、生命現象を捉えることを目的とする。
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研究実績の概要 |
遺伝子発現を調べる次世代解析や、細胞内タンパク質を観察する超解像イメージング技術などの発展は、観測精度やハイスループット性を劇的に向上させ、癌の早期検出や治療薬発見など医療分野に対して高い貢献を果たしている。しかしながら、分析対象となる細胞側に目を向けると、未だにポリスチレンディッシュやガラスなどの静的な人工物の上で評価されている。これは生体内の細胞が、組織などの特殊な足場環境から生化学的・力学的な刺激を受け続けて存在していることを考慮すると、細胞応答を正確に捉えているとは言い難い。 そこで今年度は、生化学刺激に注目し、刺激強度を制御できる足場材料を開発した。この材料を作製するために、細胞接着性ペプチドであるcRGDと光分解性2-ニトロベンジル化合物を組み合わせた光分解性cRGDの合成を行った。この分子は光照射されることで開裂する特徴を持つ。そこで、足場材料表面に2-ニトロベンジル基を介してcRGDを固定化すれば、光照射によりcRGDを足場から放出することができ、生化学刺激の強度を調節できると考えた。実際に、光分解性cRGDを用いて光応答性基板を作製し、細胞を播種すると細胞接着が確認できた。続いて、細胞が接着している状態で光照射実験を行った。cRGDが高密度の状態では細胞は上皮様な表現系を示したが、光照射によりcRGDを放出させることで刺激強度を低下させると間葉表現系へと変化した。これは、がん細胞の転移や浸潤時に見られる上皮間葉転換と呼ばれる現象であることから、光応答性材料を用いることで、生化学刺激の重要性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、光照射で細胞に対する生化学刺激をその場で制御できる足場材料を開発し、細胞応答の評価を行った。はじめに、細胞が接着する際に必要な分子であるcRGDを光機能化するため、光分解性2-ニトロベンジル基を持つ表面修飾剤と反応させることで光分解性cRGDを合成した。この分子を基板表面に固定化すると、光照射前はcRGDが表面に露出しているが、光照射を行うと2-ニトロベンジル基の分解に伴いcRGDが表面から放出される材料設計である。実際に、基板表面上から分子の放出を確認すため、cRGDの代わりに蛍光色素であるフルオレセインを結合させた光分解性フルオレセインを合成し、光照射前後における表面の蛍光強度を調べた。すると、光照射後の蛍光強度は光照射前と比べて有意に減少することがわかった。これは、光照射によって蛍光色素が放出されたことを意味しており、本研究で開発する手法が実現可能であることを示した結果である。続いて、光分解性cRGDを基板表面に修飾した光応答性細胞培養基板を作製した。この基板に対して細胞を播種し、細胞が接着した状態でcRGDの密度を光で減少させた際の細胞応答性を評価した。すると、光照射前での高濃度なcRGD上の細胞は上皮様な表現系を示していたが、光照射した直後から間葉表現系に切り替えた。以上のように、生命現象を定量的・定性的に捉える材料の開発に成功したことより、進捗状況は「おおむね順調に進展している。」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として、昨年度の研究成果である力学特性を調節できる足場材料と、今年度の成果である生化学刺激を光で制御する光応答性分子を組み合わせた足場材料の開発を行う。その後、作製した足場材料の上でがん細胞を培養し、光照射で動的に変化した力学特性や生化学特性が、細胞機能や表現系にどのような関与を示すのかを調査する。具体的には、細胞を二次元培養し、光照射によりハイドロゲルの弾性率を変化させることや、ゲル表面上の接着分子の放出を行う。さらにこの材料の利点は、光照射したポイントのみで力学特性と生化学特性の変化を誘導できるところである。この特徴を利用することで、一部のみを軟化させることや、弾性率の勾配も作成することができる。もちろん生化学特性も同様の方法で、一部のみに刺激を与えることや、刺激強度を調節することができる。また、本研究で開発する足場材料の方法論は、二次元培養だけではなく、三次元培養にも展開可能である。三次元培養での細胞機能の評価は、より生体内の環境に近しい状態であるため、将来的には薬剤スクリーニングやがん細胞の動態予測に用いるプラットフォームとして活用していきたい。
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