研究課題/領域番号 |
22K14740
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
保田 侑亮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (00909377)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 架橋高分子 / グラフ理論 / 線形弾性 / ゲル・ゴム / 力学物性 / からみあい / 高分子編目 / ゴム・ゲル / ゴム弾性理論 / 一軸伸長試験 / スカンランーケースの基準 / 粗視化分子動力学法 / シミュレーション / 高分子網目 |
研究開始時の研究の概要 |
高分子網目の不均一性を理論的に記述することを目的に、大量の不均一高分子網目を作製し、粗視化分子動力学計算によってそれらにおける力学物性を網羅的にシミュレーションする。同時に離散幾何学的手法を駆使して網目の構造記述子を定義し、各種力学物性に寄与する網目の構造記述子を特定する。得られた構造-物性相関を従来のゴム弾性理論に反映させることでさらに発展させ、精緻で幅広い高分子網目に対応した定量的力学モデルを新規に構築する。
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研究実績の概要 |
制振材やタイヤ等靱性を要する材料として広く使われる架橋ゴムの構造―物性相関の理解は産業応用上非常に重要である。一方、架橋ゴムは不均一な網目構造をとるため、均一な網目構造を仮定する従来の理論では物性予測は定性レベルにとどまる。実際、ゴムの高伸長下では、系中の一部の短い鎖にひずみが集中し、理論予測よりもかなり低い伸長率で破断する。よってゴム材料の力学・破壊物性の定量的予測には、不均一性を含めて網目の形状を正確に取り扱う新たな理論が必要である。そこで本研究では粗視化分子動力学計算により均一・不均一な網目を系統的に作成し、構造-物性の相関を定量的に解明し、ゴム弾性理論の見直しを試みる。 昨年度までに架橋完了時に均一となるtetra-PEG gel型架橋ゴムにおける実験的に妥当な粗視化モデルを構築した。また部分鎖長・分岐数・架橋率を調節することで様々な不均一性を含む高分子網目を系統的に生成するプログラム群の構築・一軸伸長計算を行った。また、グラフ理論に基づいて各種構造欠陥を排除する構造解析プログラム群を新規に構築した。本年度はこれらのパラメータのほか、高分子鎖の排除体積の有無によりからみあいの存在する実在系とからみあいの全く存在しない仮想系の二系を作成できるよう生成プログラム群を拡張した。 解析の結果、グラフ解析により弾性率は有効網目内の閉曲線数と拘束からみあい数の線型結合により定量的に表現でき、弾性率に対してはからみあい以外の構造欠陥はほとんど影響を与えないことが明らかになった。本成果はアメリカ化学会発行の Macromolecules誌に掲載された。 tetra-PEG gel様架橋ゴムのほか、末端架橋PDMSともう一種の異なる架橋過程を持つ2種の架橋網目も新たに構築し、力学物性の比較を行ったところ、弾性率は架橋様式に依存することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の5年間での研究計画として①からみあいの少ない網目を対象に構造パラメータを調節してさまざまな均一・不均一網目を作成するプログラムを作製、網羅的に変形シミュレーションを行う。②グラフ構造解析等により弾性・破壊物性に寄与する特徴量を網目構造から抽出、特に不均一性を表現するパラメータを新たに定義して力学モデルを構築する。③からみあいを多く含む不均一ゴムに対して、力学・破壊物性計算を行う。④からみあい・分子間相互作用の効果を力学モデルに導入・拡張する、という手順で本研究課題を進める予定であった。 二年目までの主な成果として、三種の架橋様式に対して部分鎖長、分岐数、架橋率、排除体積の有無を調節することで様々な不均一性・からみあいの有無を持つ高分子網目を自動生成するプログラム群を構築し、分子動力学法を用いて一軸伸長計算を網羅的に実行した。この結果から①は十分に実現できたと考える。 特にtetra-PEG gel型架橋様式のゴムに関して、からみあいのない系においては部分鎖長・分岐数・架橋率によらず有効網目に含まれる閉曲線の数と弾性率が比例することから、弾性率は有効閉曲線数にのみ依存し、網目の不均一性は大きく寄与しないことが確認された。 からみあいのある系においても、先述した有効網目内の閉曲線数と拘束からみあい数の線型結合によって構造から弾性率を定量的に予測する式を構築することに成功した。本成果に関しては先述の通り国際誌上で公開済みである。一方でそれぞれの寄与率の分子論的起源や、破壊物性を含む高伸長域物性に関しては検討中であることから、②は半分程度、③④は部分的に実現できていると考える。 以上より、二年度の進捗としてはおおむね順調と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
二年中に多くの異なる不均一性を持つtetra-PEG gel型ゴム網目に対してグラフ構造解析を用いて有効網目を抽出することに成功し、弾性率は有効網目内の閉曲線数と拘束からみあい数の線型結合により定量的に表現することが可能であることを明らかにした。また、今回試した系においては線形弾性域の力学物性に対してからみあい以外の網目の不均一性がほとんど寄与しないことが明らかになった。一方で検討領域がtetra-PEG gel型の架橋ゴムに限られるほか、高伸長・破壊物性に関しては未検討である。 そこで三年度目以降はさまざまな架橋様式と構造・物性の相関、高伸長・破壊物性に主に着目する。tetra-PEG gel型やPDMS型だけでなく、ラジカル重合型など他の架橋様式も検討し、今回の解析手法の一般性を検証すると同時に、架橋様式とグラフ構造・力学物性の相関を解析する。また、高身長・破壊物性に関しては伸びきり歪みとグラフ構造の定量的比較を行うほか、破断の起点となりうる”短い鎖”をグラフ構造から抽出する手法を開発する。このために、当初の計画にある通り、主鎖ならびに架橋に現実的な破断条件を導入することで網目の破壊物性の解析に着手する。
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