研究課題/領域番号 |
22K14745
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
三木江 翼 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (40881280)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | n型半導体ポリマー / π共役系化合物 / 電子輸送性材料 / 有機電界効果トランジスタ / 半導体ポリマー / π共役系材料 / イミド化合物 / 有機エレクトロニクス |
研究開始時の研究の概要 |
高性能なn型半導体ポリマーの開発は、有機エレクトロニクスの発展に直結する重要課題の1つである。n型半導体ポリマーの高性能化には、ポリマー中に発生した電子を、①安定に輸送できる低い最低空軌道(LUMO)準位と、②効率的に輸送できる経路構築の両立が鍵である。本研究では、ポリマー主鎖内のLUMOの非局在化に着目し、主鎖内・主鎖間の両方を効率的な電子輸送経路として活用する高性能n型半導体ポリマーを開発する。
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研究実績の概要 |
研究計画において、強すぎない「適度な」電子欠損性を持つキノキサリンイミド(QI)骨格を基盤に、LUMOが非局在化した高性能n型半導体ポリマーの開発を計画していた。今年度は、量子計算からLUMOの非局在化が最も期待できるQIとチオフェンからなる半導体ポリマーPQITを合成し、その電気化学的・光学的物性を評価した。また、有機電界効果トランジスタ(OFET)を作製し、PQITの電荷輸送性を評価した。 電気化学測定によりモノマーとポリマーのエネルギー準位をそれぞれ評価したところ、「適度な」電子欠損性を有するQIモノマーは、それ自身は十分に低いLUMO準位を持たないが、PQITとしてポリマーに組み込まれることではじめて、n型半導体特性を発現しうる低いLUMO準位を示すことが確認できた。すなわち、LUMOの非局在化は、LUMO準位の低下に効果的である可能性は高い。また、PQIT薄膜のX線回折測定では、ポリマーのπスタックに由来する分子間距離が約3.4Åと非常に小さく、高い結晶性を示すことがわかった。この要因として、PQIT三量体モデルの量子計算から、QI骨格とチオフェン環の間の二面角が10°以下と比較的小さく、ポリマー主鎖の共平面性が高いことが挙げられる。さらに、OFETを作製しPQITの電荷輸送性を評価したところ、低いLUMO準位と高い結晶性に起因して、1.0 cm2/Vsを超える高い電子移動度を示すことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、強すぎない「適度な」電子欠損性を持つキノキサリンイミド(QI)骨格を用いたポリマーPQITにおいて、LUMOの非局在化がLUMO準位の低下に効果的であることを見出し、高性能n型半導体ポリマーの開発に向けた新しい材料設計指針を示すことができた。これに加えて、X線回折測定によりポリマーの薄膜構造を評価したところ、PQITは高い結晶性を持つことが確認できた。量子計算により、PQITの高い結晶性はポリマー主鎖の高い共平面性と大きな双極子モーメントに起因することが明らかになりつつある。さらに、OFETを作製したところ、PQITはアモルファスシリコンに匹敵する電子移動度(1.0 cm2/Vs以上)を示すことがわかった。 以上の結果から、n型半導体ポリマーの新たな材料設計指針のみならず、電子移動度の向上に重要な半導体ポリマーの結晶化に関しても重要な知見が得られたと認識している。
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今後の研究の推進方策 |
PQITは高い結晶性を示すものの、Face-on配向(基板に対してポリマー主鎖が水平に配向し、主鎖間では基板垂直方向に電子を輸送)であることがわかった。一般に、OFETでは基板水平方向に電子を輸送するため、Face-on配向よりもEdge-on配向が有利である。従って、QI系ポリマーをEdge-on配向にすることで、主鎖間・主鎖内ともに基板水平方向に電子を輸送でき、さらなる移動度の向上が見込まれる。そこで、導入するアルキル基やπスペーサ、成膜条件の検討により配向性の制御を試みる。 また、PQITのLUMO準位をさらに低くできれば、OFETにおける金属/ポリマー間での電子注入がより効率的になり、さらなる高移動度化が期待できる。そこで、QI骨格よりも少し電子欠損性の強い、電子求引性の窒素やフッ素基を挿入したピリドピリジンイミド(PPI)あるいはジフルオロQI(QIF)とチオフェンからなるポリマーPPPITとPQIFTを開発する。量子計算によると、両ポリマーは非局在化したLUMOとさらに低いLUMO準位を持つことが示唆されている。
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