研究課題/領域番号 |
22K14750
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山根 崚 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (10884497)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 水分子 / セメント鉱物 / エトリンガイト / 非晶質 / X線異常散乱 / PDF解析 / 脱水 / 含水鉱物 / 多孔性 / 中性子 |
研究開始時の研究の概要 |
エトリンガイトはセメントの水和反応でできる多孔性の鉱物である。合成の容易さとイオン交換能から有害成分の除去剤として注目される。本研究では、この鉱物の40 wt%がホスト構造に水和した水分子で、ゲスト分子と水素結合ネットワークをつくる点に着目し、水分子ネットワーク中のゲスト分子配向の自由度や乱れにより生じうる多様な構造の探求を目的とする。これらの構造はゲスト分子の水素結合の解消・組み替えや分子運動など、静・動的な分子配向の情報を反映し、イオン交換能だけでなく電気伝導・誘電性など新しい機能性開拓の試金石となる。セメント鉱物の機能性を最大限引き出すことは元素戦略的に高い波及効果が見込まれる。
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研究実績の概要 |
本年は、まず天然のエトリンガイトの単結晶構造解析を行った。エトリンガイトのロッド状ホスト構造の周期単位は11Åの構造であり、H2OやSO42-がゲストとして収容されることで結晶構造全体としてはホスト構造の2倍の周期構造をもつ。一方、本測定において3倍の周期構造をもつエトリンガイトを発見した。この3倍周期はエトリンガイトの構造から類推して、ゲスト配列に起因するものと考えている。EPMAの準備を行っているが、当該の単結晶はエトリンガイト特有の黄色に赤みがかった見た目をしており、鉄の含有を示唆する。ほかのエトリンガイトグループでも、このような長周期構造を持つ鉱物は報告されていない。新種の鉱物である可能性がある。 また、エトリンガイトの結晶性の崩壊について、エトリンガイトのアナログ物質であるAlをCr, Fe, Gaに置換した合成物を高温粉末XRD測定を行った。いずれの元素においても、100℃以下の低温で明瞭なブラッグピークの消失が起きることが確認された。このことから元素に関係なく低温加熱におけるロッドモジュール構造の保存とそれに配位する水の脱水によって、周期性の乱れが起きていると類推される。一方で、TEMによるエトリンガイトのモジュール構造の観察にもチャレンジした。しかしエトリンガイトは、電子線によりすぐに壊れてしまった。ここで、特筆すべき点として電子線を照射するとエトリンガイトは結晶が発泡するかのごとく壊れていく様子を観測した。脱水によるものと考えられるが、この発泡現象により周期性が崩壊しているのではと思えるほど、微細孔ができていた。脱水を利用したポーラス材料の合成を期待させる結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年は、いくつかのポジティブな予想外の結果もあり概ね順調に進んでいるが、合成粉末エトリンガイトのhigh-Qまでの全散乱測定はできなかった。普段実験室で使用しているゴニオの入射X線が想定よりも、何らかの理由で、半分しか照射されていないことがわかり、X線の吸収補正の段階で失敗していたことが原因である。現在、別のゴニオを用いて全散乱測定の準備を進めており、来年は完遂したい。
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今後の研究の推進方策 |
来年は、本年発見した発泡現象に関して電子線によりのみ起きる現象なのか、通常の加熱によっても生じるのかを明らかにしたい。また、基礎物性に関して本年300℃, 250 MPaまでの温度・圧力領域で電気伝導度・誘電率を測定できるセルを作製した。この狙いは、エトリンガイトは40 wt%の水分子を構造中に含むが、この水分子は水の超臨界条件付近でどのような挙動を見せるかと考えたためである。更なるエトリンガイトの機能性の開拓に関する研究を進めたい。
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