研究課題/領域番号 |
22K14767
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
粟屋 恵介 熊本大学, 産業ナノマテリアル研究所, 特任助教 (10910656)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | 遷移金属酸化物ナノシート / プロトン伝導体 / 燃料電池 / 自立膜 / 低次元性材料(ナノシート) / 層状遷移金属酸化物 / 層状シリケート / 層状複水酸化物(LDH) |
研究開始時の研究の概要 |
ナノシートは層状結晶を単層剥離して得られる二次元性材料である.一枚のナノシートは,横サイズが数μmなのに対し,厚さが1 nm程度しかないため、結晶格子の全てが最表面に位置する特異な構造をもつ.本研究では,層状遷移金属酸化物や層状シリケート等より剥離したナノシートを数百~数千枚積層させたナノシート自立膜を作製し,中低温領域下(100-300 ℃)にて高いプロトン伝導度を示す燃料電池用プロトン伝導膜の開発を行う.また,ナノシートの面内にナノサイズの細孔を開けることで,ナノシートの面に対し垂直な方向にプロトンが移動可能なチャンネルとし,更なるプロトン伝導度の向上を図る.
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研究実績の概要 |
セラミックスナノシートは、層状金属酸化物等を単層剥離して得られる二次元性ナノ材料である。一枚のナノシートは、厚さが1 nm程度であり、全ての結晶格子が最表面に位置する特異な構造を有する。剥離後のナノシートは、スピンコート法やろ過法により再積層することが可能であり、積層数によっては高い機械的強度と柔軟性を併せ持った自立膜が得られる。本研究では、セラミックスナノシート自立膜を用いた燃料電池用プロトン伝導膜の開発を行う。過去の研究では、酸化グラフェン自立膜について、ナフィオンと並ぶ高いプロトン伝導度(0.001~0.1 S/cm)が報告されている。しかしながら、酸化グラフェンは熱的耐性に乏しいため、100 ℃以上の領域では伝導度に著しい低下が起こる。一方で、セラミックスナノシートでは酸化グラフェンと同等の高アスペクトな構造を有しているものの、熱的耐性に優れることから、中低温領域(100-300 ℃)においても高い伝導度を示す可能性がある。 本研究を進行するにあたり、酸化チタンや酸化カルシウムニオブ等の各種ナノシートから成る自立膜をろ過法により作製した。自立膜の透過および反射X線回折(XRD)パターンより、ナノシートが配向して積層している状態を確認した。プロトン伝導度測定では、各種ナノシートのうち、酸化カルシウムニオブナノシートがより高い値を示した。酸化カルシウムニオブナノシート自立膜を酸処理したのち、100 ℃、相対湿度(RH)100%の条件で燃料電池評価を行い、最大電流密度1.7 mA/cm2、起電力0.90 V、最大出力密度0.38 mW/cm2の値を得た。また、酸化カルシウムニオブナノシートに予め凍結乾燥処理を施した場合、より高い伝導度が得られたことから、膜中のナノシートの配向性を制御することで性能をより向上させることができると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化チタン、酸化ニオブ、酸化チタンニオブ、酸化カルシウムニオブ、酸化マンガン、酸化マンガンコバルトナノシートを作製し、原子間力顕微鏡(AFM)によりナノシートの形状や厚さを評価した。酸化マンガンおよび酸化マンガンコバルトナノシートでは、シート内に数十nmの孔が存在することを確認した。各種ナノシートを用い、厚さが23-40 μmの自立膜を作製した。各ナノシート自立膜の透過および反射XRDを測定し、各種ナノシートが面と面を貼り合わせて積層している様子を確認した。ナノシート自立膜に酸処理を施し、プロトン伝導度を測定したところ、Mn1-xCoxO2について4.1×10-6 S/cm、Ca2Nb3O10について1.7×10-5 S/cm(80 ℃、100%RH)の値を得た。さらに、Ca2Nb3O10ナノシート結晶中のCaサイトに関し、Mgで10-50%の置換を行ったところ、30%置換したものでより高いプロトン伝導度(4.8×10-5 S/cm)を示した。より高温での測定においては、100 ℃で2.2×10-5 S/cm、120 ℃で4.7×10-8 S/cmの値となった。また、Ca2Nb3O10ナノシートに予め凍結乾燥処理を施した膜のプロトン伝導度を測定した。各温度での値は1.8×10-3 S/cm (100 ℃)、2.6×10-5 S/cm (120 ℃)であった。Ca2Nb3O10ナノシート自立膜を燃料電池セルに組み込み、電流-電圧特性を測定した。各温度の最大出力密度および起電力は、0.63 mW/cm2・0.94 V (80 ℃)、0.38 mW/cm2・0.90 V (100 ℃)、0.08 mW/cm2・0.92 V (120 ℃)であった。以上の結果より、各種セラミックスナノシート自立膜の作製およびプロトン伝導・燃料電池評価がおおむね順調に進行しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次のア)およびイ)を中心に推進する。 ア)ナノシート合成とプロトン伝導性評価: 先述のナノシート自立膜各種に関し、引き続きプロトン伝導度の評価を実施する。2022年度の結果ではペロブスカイト酸化物ナノシート(Ca1-xMgxNb3O10)の金属サイトに異種元素を置換することでプロトン伝導度の向上がみられた。そこで、ペロブスカイト骨格(AB2O7、A2B3O10)のAサイト(Ca、Sr、La)あるいはBサイト(Nb、Ta、Ti)が異なるナノシートの合成・自立膜化、およびプロトン伝導度測定・燃料電池評価を行う。具体的には、La(Nb, Ta)2O7、Ca2Ta3O10、Sr2(Nb, Ta)3O10、La2Ti3O10ナノシート等を予定している。 イ) 自立膜の配向性制御: また、Ca2Nb3O10の凍結乾燥粉末に関しては、自立膜よりも高いプロトン伝導度が得られている。この結果は、ナノシート膜のプロトン伝導度がナノシートの配向性に依存していることを反映しており、プロトン伝導方向に垂直にナノシートが配向する場合、ランダムに配向した凍結乾燥体と比較してプロトンの移動行程が長くなったためと考える。したがって、ナノシート自立膜の配向性を低下させつつ、ガスバリア性を維持できる構造とすることで、より高いプロトン伝導度、燃料電池特性が得られる可能性がある。具体的には、ガスバリア性の低いランダム配向領域をガスバリア性の高い高配向領域で挟んだ構造を設計する予定である。自立膜の構造は、透過・反射XRDパターンおよび断面の走査型電子顕微鏡像(SEM)によって評価する。
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