研究課題/領域番号 |
22K14779
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分37010:生体関連化学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河村 玄気 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (10852791)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | Akt / 光制御 / 一細胞解析 / イメージング / 発光プローブ / 一細胞イメージング |
研究開始時の研究の概要 |
細胞集団において細胞は一細胞毎に固有の生理機能を発現する。キナーゼAktは細胞内で様々なシグナル伝達を活性化することで生理機能の発現を制御している。Aktによる細胞機能の制御は、Aktの時間的活性パターンにより変化する。また、Aktは細胞毎に異なる時間的活性パターンを示すため、細胞固有の生理機能が発現する機構の一端には一細胞毎のAktの活性化パターンが関与していると考えられる。本研究では時空間的なAktの活性動態を解析するため、Akt活性を検出する高感度な発光プローブを開発することで、一細胞レベルでAkt活性の時間変化を測定する技術を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究ではAktの活性動態を一細胞毎に追跡する発光プローブを開発することで時空間的なAkt活性動態の測定を実現することを目標としている。本年度においてはAkt発光プローブの概念実証を行い、Aktのリン酸化により局在が変化するタンパク質ドメインとルシフェラーゼ断片を融合することで、タンパク質ドメインの局在変化に応じて発光量が変化することを確認した。また、よりAkt活性特異的な活性変化を達成するためタンパク質ドメインに対して変異導入、及び不要な配列の除去を施した。これらの改良によりAkt阻害剤刺激後最大で3倍程度の発光量変化が観察された。観察結果からは未刺激時の発光量が想定よりも高いことが推測されたため、今後は未刺激時での発光量を低くする改良を施す予定である。 また、光活性化型Aktを用いたオミクス解析によりAkt単体の活性化により制御される代謝経路の特定に成功した。この知見はAkt発光プローブの応用先として想定している解糖系の数理モデル化に活かすことができると期待される。具体的には、Aktは糖取り込みから開始される解糖系の、特に下流解糖系に作用が大きいことが示唆された。そこで、Aktの活性動態は解糖系下流と強く関係していることが考えられるため、解糖系下流を中心とした反応のモデル化を行うことにした。加えて、得られた解析結果はAkt単体の活性化により解糖系が駆動されることを示しており、本研究で考案した光操作によりAkt活性動態に対して時空間的な摂動を加えることで、解糖系を対象とした細胞機能の解析が実現可能であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、開発を目指すAkt発光プローブの原型となるプローブの構築に成功している。このプローブは当初構想した作動原理により構築されており、Akt活性化刺激後最大で1.5倍程度の発光量変化が観察されている。また、Akt阻害剤で細胞を処理した場合では3倍程度の発光量変化が観測された。生化学的実験によりこれらの条件下でのAkt活性量の変化をAktのリン酸化量変化を指標に検出したところ、Akt活性化剤処理の場合では5倍程度Aktのリン酸化が増加したのに対し、Akt阻害剤の場合ではAktのリン酸化量が1/10程度にまで減少した。程度は異なるものの、開発したプローブの発光量変化の活性化剤および阻害剤に対する応答性は生化学的実験によるものと類似していることが確認された。一方、これらの実験においては刺激剤添加前の状態でプローブ由来の発光が想定よりも高く観測された。発光プローブの発光量変化はルシフェラーゼ再構成法の原理に基づいているため、未刺激時における高い発光値は非特異的にルシフェラーゼ再構成が生じたためだと推測された。 光活性化型Aktを用いたオミクス解析によりAkt単体の働きにより解糖系が駆動されることを示唆する知見が得られた。そこで、当初の構想通り、解糖系の一つの出力として乳酸量変化とAkt活性動態を同時に解析する一細胞測定系を確立することにした。まず、数理モデルを構築するために必要となる反応の模式化を行うため、解糖系依存的な乳酸量変化を測定することにした。そこで、グルコース飢餓した細胞に対してグルコース刺激を行った。結果、初期グルコース量依存的な乳酸量変化を一細胞レベルで追跡することに成功した。また、光活性化型Aktを用いてAkt活性を変化させることで乳酸量変化の時間的動態が変化することを見出した。これらの測定結果を基にAkt活性動態に依存した解糖系の模式化を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、Akt発光プローブに関しては、未刺激時の発光量を抑えることで性能の改良を図る。開発しているプローブの検出原理はルシフェラーゼ再構成に基づくため、ルシフェラーゼ再構成に関連した改良点から着手する。具体的には、未刺激時に既に再構成しているルシフェラーゼ量を減らすため、プローブに分解配列を導入することで非特異的に再構成しているルシフェラーゼを分解させる。また、ルシフェラーゼ再構成法ではルシフェラーゼ分割断片の量比により再構成の生じやすさが変化するため、細胞へのプローブの導入方法を検討することで最適な量比の実現を図る。これらの工夫によりAkt発光プローブの性能向上が見込まれる。加えて、開発したAkt発光プローブに一細胞追跡に資する性能があるかを検討するため、顕微鏡下でAkt発光プローブを発現した細胞の発光量変化を観察する。 数理モデルに関しては、解糖系の模式化を行うことで得られた測定結果を再現するモデルの確立を目指す。具体的には、模式化して得られた数理モデルに対し、測定可能な変数である細胞内乳酸の測定値を基にパラメータ推定を行い、測定結果を再現可能かどうか検証する。また、この数理モデルに対し妥当性を検証する。まず、モデルの複雑性と測定値に対する再現度を統計基準量から評価する。加えて、モデルの妥当性を検証するための測定を行い、モデル構築に用いていないデータを再現することができるかどうかを確認する。以上の検証を経ることにより、最も妥当な数理モデルを確立する。
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