研究課題/領域番号 |
22K14813
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
守 次朗 横浜市立大学, 理学部, 助教 (10835143)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 石油分解微生物 / 多環芳香族炭化水素 / ゲノミクス / 微生物間相互作用 / メタゲノム / 環境汚染物質 |
研究開始時の研究の概要 |
石油を分解し増殖する微生物生態系は、石油の各成分の分解に関わる特殊な酵素を持つことで石油分解を先導する「パイオニア微生物」と、それらに依存して共存する“脇役”微生物とで構成されると考えられる。こうした“脇役”たちの中には、パイオニア微生物や生態系全体に重大な影響を与える“影の主役”が存在している可能性がある。本研究では、石油に含まれる有毒な汚染物質の除去や有用資源への変換を目的としてこれら石油分解微生物を利用するにあたり、“脇役”微生物の役割について詳しく評価し、パイオニア微生物および“脇役”たちから成るコンソーシアムを「丸ごと」利用することの意義と有用性について評価することを目指している。
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研究実績の概要 |
沿岸海水から得られた多環芳香族炭化水素を生分解する海洋細菌コンソーシアムより、PAHの一種であるフェナントレンを生分解する新規の細菌Sagittula sp. MA-2株を単離した。さらに、このMA-2株について、その完全ゲノム配列の解読に成功した。ゲノム解析の結果、MA-2株はゲノム中に主要染色体に加えて8つの環状プラスミドを有するユニークな性質をもっており、このことは、外来遺伝子を活発にゲノム中に取り込む生活様式をとっていることを示唆していた(Abe et al., Marine Genomics, 2023)。実際に、MA-2株がもつプラスミド上の遺伝子から、PAHの生分解に関わると推定される酵素群をコードする遺伝子クラスターを発見した(Mori et al., 13th Asian Symposium on Microbial Ecology,口頭発表)。MA-2株が生分解したフェナントレンは、その一部がフタル酸に変換され、これを同じコンソーシアム中で優占するThalasosspira属が栄養源として利用して増殖する(Kayama et al., Microbiol. Spectr., 2022)という、新規のPAH生分解「パイオニア」と「脇役」細菌の関係性を見出すことができた(論文査読中)。 また、優れたPAH生分解能をもつ土壌細菌Sphingobium barthaii KK22株が産生する代謝産物が、単環芳香族を分解するAchromobacter属細菌の増殖を特異的に促進する現象を発見した。これは、PAH生分解パイオニア微生物と共存する「脇役」微生物との間で進化した独自のコミュニケーション機構の存在を示唆している(投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沿岸海水試料から新たに確立したPAH生分解海洋細菌コンソーシアムから、新規のPAH生分解パイオニア細菌であるSagittula属の単離株を得ることに成功し、そのユニークなゲノム構造を解明することができた。さらに、同じコンソーシアムで共存するThalassospira属との栄養依存関係について、それぞれの単離株の培養試験とゲノム解析を通して解明することができた。 その他、当研究課題に関連する研究成果として、3報の論文を投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、PAH生分解パイオニア細菌であるSphingobium属と「脇役」細菌であるAchromobacter属の特異的なコミュニケーション機構について実証するために、以下の2点に特に注力して研究を遂行する予定である。 (1)Sphingobium属の培養物に含まれる代謝産物の網羅的な解析、および異なる手法を用いた分画法により、Achromobacter属の増殖を促進するシグナル分子の特定を目指す。 (2)Achromobacter属単離株の完全ゲノムの解読と遺伝子発現挙動の解析により、増殖の促進が引き起こされる機構について理解する。 これらの試みにより、PAH生分解能を発揮するSphingobium-Achromobacter間で進化した新規の異種細菌間コミュニケーション機構を発見できると期待される。
その他、現時点で得られている研究成果について、論文の執筆に注力する。
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