研究課題/領域番号 |
22K14826
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分38030:応用生物化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武田 康太 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (20781123)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 酸化還元タンパク質 / 酵素電極反応 / 直接電子移動 / ピロロキノリンキノン / ヘム / プロトン共役電子移動 / 酸化還元酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
酵素電極反応とは酵素反応と電気化学反応が共役した反応のことで、なかでもタンパク質-電極間で直接電子移動(DET)が起こる場合はDET型酵素電極反応と呼ぶ。現状、DET可能な酵素種は限られているものの、近年、研究代表者は優れたDET能を有するキノコ由来の酸化還元酵素を報告した。本課題ではピロロキノリンキノン、フラビン、ヘム等を活性中心に有する糸状菌由来の酸化還元タンパク質を対象に、DET型酵素電極反応における構造機能相関を明らかとし、より普遍的なDETの確立方法、酵素電極の出力向上における方法論を確立する。それにより糸状菌の生物機能を利用したバイオエレクトロニクス技術への展開を目指す。
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研究実績の概要 |
酵素による触媒反応と電極での電気化学反応を共役させた反応を酵素電極反応といい、電気化学的なバイオセンサーや物質変換、バイオ燃料電池の基盤となる。酵素と電極間で直接的な電子の授受が起こる直接電子移動反応(DET)は非常にシンプルな反応系となるのが利点である。しかし、酵素の立体構造に大きく依存することから、DETが可能な酸化還元酵素の種類は全体のごく一部に限られているのが課題となっている。そこで研究代表者は、優れたDET反応を示す糸状菌由来のピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビン(FAD)、ヘムなどを活性中心に有する酸化還元酵素に注目し、これらの酸化還元タンパク質の性質を明らかとし、それを利用した直接電子移動反応系の設計手法と酵素電極の開発を目的としている。 本年度は、糸状菌のPQQ依存性ピラノース脱水素酵素とFAD依存性セロビオース脱水素酵素を対象に、DET反応系の構築とそれを基にした酵素の解析、変異導入が与える電子移動反応への影響を調べた。まずは、ピラノース脱水素酵素の触媒ドメインのみを用いて、酵素活性中心のPQQの酸化還元反応について解析した。DET法により酸化還元電位を測定し、電位のpH依存性の詳細について明らかにした。その結果、酵素内PQQのセキミノンの生成定数が明らかとなり、水溶液中のフリーのPQQに比べてセキミノンが安定化されていることがわかった。さらにPQQのキノン部位のpKaを決定し、プロトン共役電子移動に関する知見を得た。 セロビオース脱水素酵素について、電極への固定化方法を検討し、DET型酵素電極反応を確立した。さらにシトクロムドメインの変異体を作製し、ヘムプロピオン酸近傍への変異導入によりヘムの酸化還元電位をコントロールできることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに報告されているほとんどのDET可能な酵素は、分子内に触媒部位に加えて電子伝達部位をもつ酵素で、自身の電子伝達部位を介してDETが進行する。一般的に、触媒部位からのDETは困難とされ、その原因は酸化還元中心がタンパク質内部に埋もれて電気的な接触ができない場合が多い。しかし本研究では、ピラノース脱水素酵素の触媒ドメイン(PQQを活性中心に含むドメイン)のみでのDETを達成できた。触媒部位からDETが進行する理由として、立体構造解析や固定化条件等の検討から、酵素の基質ポケットの大きさや表面までの距離といった要因が重要であるという知見が得られた。また、金ナノ粒子を電極表面に集積することで細孔構造を形成させ、自己組織化単分子膜により表面を親水的した電極に触媒ドメインを固定化することで、触媒電流を飛躍的に増加させることができた。その結果、サイクリックボルタンメトリー(CV法)から、電極表面上の酵素内PQQの酸化還元波を直接観測することに成功した。これにより酵素内PQQの酸化還元電位や、プロトン共役電子移動を一挙に明らかにすることができた。セロビオース脱水素酵素に関しては、グルタルアルデヒドと自己組織化単分子膜を用いた架橋法により酵素を電極表面に固定化し、DETを達成した。それによりセロビオース脱水素酵素の酵素電極反応やヘムの酸化還元電位の解析が可能になった。ヘムプロピオン酸近傍に位置するアミノ酸残基への置換により、触媒ドメインの活性を維持したまま、シトクロムドメインの電位や表面電荷を改変する方法を見つけることができた。類似した構造を有するピラノース脱水素酵素のシトクロムドメインの変異体においてもCDHの変異体と相関する結果が得られた。以上、本年度の研究計画目標をほぼ達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ピラノース脱水素酵素の触媒ドメインについてDETによる解析手法を確立できたので、電気化学測定からのアプローチを中心に、配位する金属イオンの違いによるPQQの電子状態、酵素反応機構などについて調べる。また、他のPQQ依存性酵素の触媒ドメインに関して、触媒ドメイン固定化電極における電極材料および固定化方法を参考にし、DET型酵素電極反応系の構築を試みる。 糸状菌由来シトクロムドメインに関して、分子内の触媒ドメインの活性を維持したままヘムの電位がシフトした変異体が得られた。このシトクロムドメインは糸状菌に特徴的に見られるシトクロムで、セロビオース脱水素酵素以外にも広く存在する。令和5年度では、シトクロムドメインの状態(電位や表面電荷)と電子移動反応との相関について知見を得ることを目的に、これらの変異体の速度論的解析等を行い、分子内、電極間の効率的な電子移動の設計指針に関する知見を得る。 糸状菌のシトクロムドメイン単体を組換え発現系によって調製し、DETが困難な糖酸化酵素に対して、シトクロムドメインを電子伝達タンパク質としたDET反応系を構築する。具体的には、まずはバクテリア由来のPQQ依存性脱水素酵素を対象とし、シトクロムドメインとの複合的な状態での電極固定化を検討し、DET型酵素電極反応系の開発を行う。
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