研究課題/領域番号 |
22K14872
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分39010:遺伝育種科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
有賀 裕剛 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 遺伝資源研究センター, 研究員 (00849060)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ウイルスベクター / 遺伝資源 / 作物近縁野生種 |
研究開始時の研究の概要 |
高度なストレス耐性や病害抵抗性などを示す野生種植物が、どのような遺伝子によってこれらの形質を獲得しているのかを明らかにできれば、新たな形質を付与した作物の育種に繋がる。しかし野生種植物の大部分は遺伝子組換え方法が確立されていないため、遺伝子の機能を検証することが難しい。近年開発されたウイルスベクターを用いたゲノム編集法を野生種植物に適用できれば、遺伝子組換えせずに遺伝子機能を検証することが可能となる。そこで本研究では「対象とする野生種植物に特化したウイルスベクターの構築と、それに続くウイルスベクターを利用したゲノム編集個体の獲得」という一連のスキームを確立することを目指す。
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研究実績の概要 |
野生種植物が示す耐性や抵抗性を支配する鍵遺伝子を同定することは重要である。多様な野生種植物の中には過酷な生育環境し、特異な形質を示すものが存在する。このような野生種が示す形質が、どの遺伝子によって決定づけられているかを明らかにできれば、作物育種あるいは植物科学に新たな知見をもたらすと期待される。しかし多くの野生種は形質転換系がなく、候補遺伝子の機能を直接検証することが困難である。そこで本研究では申請者らの研究グループで解析が進んでいるVigna属(アズキやササゲの仲間)野生種をモデルケースとして、対象とする野生種植物に最適化されたウイルスベクターの構築と、それを利用した遺伝子機能の検証手法の確立を目指す。 本課題では第一に、Vigna属野生種植物の自生地で実際に感染しているウイルスを単離することに着手した。Vigna属野生種の自生地から葉サンプルを収集し、RNA-seq解析を実施した結果、Bean common mosaic virus (BCMV)とCucumber mosaic virus (CMV)の2種のウイルスが検出された。これらのウイルスを単離し、ウイルスの感染性クローン(cDNA)を合成した。次いでウイルス感染性クローンに外来遺伝子を組込むための制限酵素サイトを付加することで、ウイルスベクターを構築した。CMV ベクターを用いることでVigna属野生種の内在遺伝子の発現量を抑制すること、BCMVベクターを用いることで遺伝子組換えなしに外来遺伝子を発現させることにそれぞれ成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Vigna属野生種植物の自生地(沖縄県宮古島)からヒナアズキ(V. riukiuensis)およびハマササゲ(V. marina)の葉サンプルを収集し、RNA-seq解析を実施した。その結果、これらのVigna属野生種にはインゲンマメモザイクウイルス (BCMV) とキュウリモザイクウイルス (CMV) の2種のウイルスが感染していることが明らかとなった。ベンサミアナタバコを用いてこれらのウイルスを単離し、全ゲノム配列を決定した(Ariga et al., 2022 JGPP)。 これらのウイルスの感染性クローン(ウイルスゲノムcDNA)を合成し、外来遺伝子を組込むための制限酵素サイトを付加する改変を実施した。この改変ウイルスゲノムcDNAを35Sプロモーター下流に繋ぐことで、アグロバクテリウムを介して標的植物に感染させることが可能なウイルスベクターを構築した。 CMV を基に作出されたウイルスベクターは様々な植物種でウイルス誘導性ジーンサイレンシング (VIGS)の成功例が報告されている。そこで本課題で構築したCMV ベクターを用いてVigna属野生種のPDS遺伝子を標的としたVIGSを実施した。その結果、PDS遺伝子のサイレンシングによる葉の白化が部分的に見られた。PDS遺伝子の発現量を確認した結果、空のCMVベクター感染植物と比較して、約20%遺伝子発現量が低下していることが確認された。 もう一方のBCMV ベクターにGFP遺伝子を搭載し、Vigna属野生種および栽培種に感染させた結果、BCMVベクターに感染した植物でGFP蛍光が確認された。このことから本課題で構築したBCMVベクターは、遺伝子組換えなしに外来遺伝子を発現させることが可能であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
CMV ベクターを用いることで、効果は限定的ながらVigna属野生種においてVIGSによる遺伝子発現抑制効果が確認できた。VIGSの効果は標的とする遺伝子の配列や、ウイルスベクターに搭載する部分配列の長さによって大きく変化することが知られている。今後、Vigna属野生種の耐塩性に寄与すると考えられる遺伝子を標的に、最適条件によるVIGSを実施することで、当該遺伝子が耐塩性に与える影響を評価する。一方でCMV ベクターから外来遺伝子を発現させることは未達である。そこで今後、CMVゲノムにコードされる遺伝子と外来遺伝子を自己切断ペプチドである2Aペプチドを介して融合させることで、外来遺伝子の発現を試みる。 BCMVベクターを用いることで、Vigna属植物に遺伝子組換えなしに外来遺伝子を発現させることに成功したものの、BCMVベクターの感染効率は約20%と低かった。これまでに報告のあるウイルスベクターのうち、BCMVと同様にゲノムRNAの3’末端にポリAを持つポテックスウイルス属を基にしたウイルスベクターでは、ポリA鎖が短いと感染効率が低下することが知られている。そこで現在のBCMVベクターが有する20ntからなるポリAを、2倍の40ntに増加することで感染効率の向上を試みる。また、ウイルスベクターの安定性は搭載する外来遺伝子のサイズによって負の制約を受けることが知られている。今年度は遺伝子サイズが約700bpのGFP遺伝子の発現に成功したが、今後は遺伝子サイズの大きいゲノム編集酵素遺伝子などの発現を試みる。
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