研究課題/領域番号 |
22K14880
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分39020:作物生産科学関連
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
黒川 裕介 名城大学, 農学部, 助教 (60851798)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 冠水 / ガスフィルム / 葉身の撥水性 / ROLバリア / drp変異体 / 生長解析 / デンプン定量 / DNAマーカー / イネの耐水性 / イネ突然変異体 / 遺伝子マッピング |
研究開始時の研究の概要 |
我が国における昨今の豪雨による作物被害は甚大である。葉のガスフィルムと根のRadial Oxygen Loss (ROL)バリアは作物の耐水性に関与している。ガスフィルム/ROLバリアの研究は、①主に、生理学的研究に終始しており、②2つの耐水性形質は独立して評価されてきた。本研究では、ガスフィルム/ROLバリアが形成される、完全冠水/嫌気還元処理後に、両形質同時欠損が予想されるイネ突然変異体と野生型の生育差を詳細に解析する。これら解析を進めることで、ガスフィルム/ROLバリアの有効性を、①従来の生理学的研究よりも直接的に証明することができ、②両形質を1本の直線で捉えて評価することが可能となる。
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研究実績の概要 |
完全冠水条件下において,両イネの地上部生長を詳細に調査したところ,葉身のSPAD値はガスフィルム欠損のdrp変異体ではKinmazeよりも減少していたが,その減少程度は上位葉よりも下位葉の方が大きかった.この結果と一致して,drp変異体のワックス結晶の量は下位葉の方が少ないことが明らかとなった.冠水後における第2位展開葉の葉鞘に含まれるデンプン含量を経日的に調査したところ,Kinmazeでは冠水日数が経過するにつれて大幅に減少したのに対して,drp変異体ではその減少程度が小さかった.この結果から, drp変異体では,Kinmazeとは異なりガスフィルムを介した好気呼吸を行うことができず,代わりに嫌気呼吸を行っていたと示唆された.この仮説を検証するために,冠水後にデンプン量が減少した時期の葉鞘からRNAを抽出し,今後の好気/嫌気呼吸マーカー遺伝子の発現解析用の試料を得た. ワックス欠損のdrp変異体がROLバリアも欠損するかを評価するために,根の損傷が危惧される実験系ではあったが,湛水条件下でポット栽培を行い,ROLバリア形成を誘導した植物体を用いて,メチレンブルー染色法により定性的にROLバリアの形成能を評価した.その結果,僅かではあるが,Kinmazeよりもdrp変異体の方が根の周りで酸素が多く漏出している傾向がみられた. drp5変異体のガスフィルム欠損を説明する原因遺伝子の単離を目的に,drp5変異体とインド型品種のKasalathを交配することにより,新たなF1雑種個体を複数得た.同時に前年度よりも,両イネのゲノム多型を検出するためのDNAマーカーを多く作製することができたことから,F2自殖集団を作製した後,早急に遺伝子連鎖解析を進めることが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題の2年目にあたる2023年度は,①冠水条件下における葉緑素含量の低下とガスフィルム消失によって誘導される嫌気呼吸との関係性の評価,②drp変異体を用いたROLバリア形成能の評価,③drp5変異体のガスフィルム欠損を説明する原因遺伝子の単離に向けた植物材料の作製を中心に研究を進めることができた. ①に関して,drp変異体を用いた本解析により,ガスフィルムは地上部生長の遅延防止に加えて,葉緑素含量の維持にとっても重要であることが明らかとなった.冠水後の葉鞘に含まれるデンプン量をKinamzeとdrp変異体で比較したことで,ガスフィルムが欠損する場合,水中でのガス交換を行えないことが原因で,好気呼吸の代わりに嫌気呼吸を中心的に行うことが示唆された.嫌気呼吸関連の遺伝子発現解析を進めるために,RNA抽出を既に完了したことで,今後は,本申請課題の主目的であった「ガスフィルムの生長に及ぼす直接的な効果の検証」を遺伝子発現レベルで遂行できる. ②に関して,ポットで栽培した個体を2週間,水位5cm程度の湛水環境下で栽培し,ROLバリア形成を誘導する処理を行ったところ,drp変異体ではKinmazeと比較して,僅かにROLバリア形成が弱くなる傾向がみられた.本申請課題の主目的に「イネの根に存在するワックスとROLバリア形成能との関係性を検証すること」を掲げていたが,この結果により,根に存在するワックス成分もROLバリアの原因成分となる可能性が示唆された. ③に関して,drp5変異体とKasalathとの交配を行うことで遺伝子マッピング用の植物材料作製に成功したのと同時に,両系統のゲノム多型を検出するDNAマーカーも昨年度に追加して作製できた.今回作製した植物材料の子孫集団を用いて連鎖解析を進めることで,新たなガスフィルム関連遺伝子の単離が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
本申請課題の研究により,drp変異体は,ガスフィルムが消失することで,水中空気層を介した好気呼吸を行うことが出来なくなり,代わりに嫌気呼吸を行うことで僅かな代謝を行っていることが示唆された。この仮説を証明するために,経日的な完全冠水処理を行った植物体の第2位展開葉からのRNAを既に抽出しているため,今後は,冠水環境下における好気/嫌気呼吸のマーカー遺伝子の発現量をKinmazeとdrp変異体で比較していく.さらに,ガスフィルムの有無により水中光合成量も変化することが予想されるため,同様の抽出RNAを用いて光合成関連遺伝子にも注目して発現解析を進めていく. 湛水条件下で可能な限り根を損傷せずに植物体を栽培した後に,根からの酸素漏出をメチレンブルー染色法により観察したところ,drp変異体はKinmazeよりも僅かに酸素の漏れが確認された.本実験系より根を損傷することなくROLバリア形成能を評価するために,栄養成分を含む寒天希釈液に窒素ガスを吹き込むことで,嫌気還元状態を模倣しながらROLバリアを評価する必要があるが,この実験系は既にセットアップ済みである.今後は,drp変異体を嫌気還元の水耕溶液で栽培し,通常イネのKinmazeとは異なりROLバリアの形成誘導が欠損するのかを確認する.さらにROLバリアの構成成分とされる根外皮に含まれるスベリンの沈着程度もFluorol Yellow染色試薬を用いて両系統で比較する. drp5変異体のガスフィルム欠損の原因遺伝子のマッピングに関しては,本年度に新たなF1個体が作出できたことから,次年度に自殖をし,新たなF2雑種集団を大量に得る.drp5変異体と交配親系統としたKasalathのゲノム多型を検出するDNAマーカーは,この2年間で多く作製済みである.次年度のF2種子収穫後に,約5000個体程の集団を栽培し,ガスフィルム形成と正の相関関係がある「葉の濡れ性」を表現型として,遺伝子連鎖解析を進めていく.
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