研究課題/領域番号 |
22K14884
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分39030:園芸科学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石森 元幸 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (50758729)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | 花き / 花持ち性 / インターバル撮影 / 深層学習 / 物体検出モデル / マルチオブジェクトトラッキング / 分子機構 / 遺伝子 |
研究開始時の研究の概要 |
代表的なサクラであるソメイヨシノの花はわずか数日で散ってしまうが、植物種により花の寿命は数時間から2-3週間程度と違いが大きい。花の寿命を延ばす研究は古くから行われてきたが、花の色や形などと比べると、その測定や改良には非常に手間が掛かってしまう。本研究では、これまで園芸植物にはあまり利用されてこなかった新しい手法を導入することで、花の寿命を研究するための測定システムの開発や品種改良のための解析技術の確立を目指している。
|
研究実績の概要 |
花きにおいては花色や花型などの観賞形質が重要であるが、近年ではより長く花を咲かせる性質(花持ち性)が高付加価値形質としてその重要性を増している。花色などの安定的な形質(質的形質)の品種改良は望ましい性質を有する植物個体を選び、子孫を得ることで、比較的容易に優れた品種を作り出すことが出来る。一方、花持ち性は環境の影響を強く受ける量的形質であると同時に、経時的な評価を必要とするために多大な労力が掛かる。今後、花持ち性の品種改良を効率的に進めるためにはハイスループットな解析プラットフォームが必要であり、本研究を開始するに至った。 2022年度は主にトルコギキョウ・ペチュニア・ハナスベリヒユなどを対象としてインターバル撮影を行うために、タブレット端末用のカメラアプリの作成と遠隔操作(リアルタイムモニタリング)・クラウドへのデータ転送の自動化を行った。これにより夏季の温室内は40℃を超える過酷な環境となることもあるが、3カ月以上の期間にわたって撮影を継続して実施できた。 画像から自動的に花を検出・花持ち性を定量するために、撮影画像の一部を深層学習による物体検出モデルの訓練に使用した。同モデルによる各画像からの花の検出精度は非常に高く、画像の解像度次第では花色・花型・花サイズなどの観賞形質も容易に測定することが出来ると考えられる。花持ち性の定量のためには同一の花を経時的に追跡する必要があり、マルチオブジェクトトラッキング(MOT)と先述の花検出モデルを組み合わせた手法を適用した。温室内では植物体の成長・風の影響などで花の位置がかなり移動することがあるが、MOTにより最長で30日間以上にわたってトルコギキョウの同一花を追跡することが可能であった。同成果により多数の花について経時的な測定が可能となり、花持ち性の検定を極めて効率的に行えるようになると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では花持ち性の解析プラットフォームの開発を第一に掲げており、実績概要に記したようにその開発は順調に進んでいる。今後はさらに花の検出・花持ち性の定量精度の向上を進めていき、極めて安定的な測定システムを作り上げていく必要がある。特に深層学習分野における物体検出モデルとそれを活用したマルチオブジェクトトラッキングの手法開発は日進月歩の様相を呈しており、園芸学分野への応用を急ぐために最新の研究成果を本研究において積極的に試験・活用している。 2022年度の主要な測定対象であったトルコギキョウ・ペチュニア・ハナスベリヒユにおいては花持ち性定量の自動化の目途がたっており、研究への活用という面でも順調に推移していると考えている。上記の花きにおいては花持ち性を中心に多様な形質について遺伝分離が起こることを期待し、自殖・交雑により次世代を養成しており、2023年度以降の研究に供する予定である。 一方、今後の課題としては花持ち性の遺伝解析や遺伝子発現解析が挙げられる。2022年度は測定システムの実装や実際に花きを栽培しつつ試験や調整を重ねたため、遺伝子解析などはその成果に目途がたってから進めていく必要があった。特に次世代シーケンサーによるジェノタイピングやRNA-Seqには多額の費用が掛かるため、確実に研究成果に結びつく実験デザインを慎重に検討している段階である。2023年度以降はより多くの系統を実験に使用する計画であり、品種改良において使用できるような花持ち性に優れた個体の遺伝解析や遺伝子発現に焦点を絞ることも考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
花持ち性の解析プラットフォームの開発は順調であり、操作性などの改善を図りつつ、より多種の花きの研究においても使用できるような拡張性を目指していく。2022年度までに研究を開始しているトルコギキョウ・ペチュニア・ハナスベリヒユでは交雑などにより世代を進めており、品種改良にも利用できるような花持ち性を含めた諸特性に優れた系統の選抜も進めていく。今後はわずか数日しか開花しないハス、切り花・花壇用の品種があるキンギョソウなどと品目を増やしていく予定である。しかし、栽培可能な数には限りがあるため、公共利用できる花き画像のデータベースの活用や共同研究先との連携などにより植物種数を増加させることも不可欠となる。 遺伝子解析ではRNA-Seqを中心とした発現解析を進めるとともに、数は少ないものの花持ち性に関連するとされる既知遺伝子についてゲノム編集を活用した逆遺伝学的アプローチも検討する必要がある。トルコギキョウ・ペチュニア・ハナスベリヒユなどでは遺伝子組み換え法自体は確立しているが、大規模な花持ち性の評価は閉鎖系環境外での試験認可を受けやすい(組換え遺伝子を含まない)既知遺伝子破壊株の利用が望ましいと考えられる。 本研究では花持ち性に主眼を置いているが、解析プラットフォーム自体は様々な用途への応用が可能である。花色・花型・花数などの評価を行うことは比較的容易であると考えられ、そうした関連形質の網羅的フェノタイピング技術としての活用も検討していく。既に同様の技術を用いて果菜類(ナス)の初期成育量の解析を行えることを明らかにしている。また現状では3D化などを活用した立体的な花形態や植物体の草型解析は屋外では困難を伴うものの、撮影機材などを検討し、将来的にはハイスループットな3D解析手法の確立を目指していく必要がある。
|