研究課題/領域番号 |
22K14953
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
梅田 剛佑 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(南勢), 任期付研究員 (20792443)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ウナギ / JEECV / 血管内皮壊死症 / 血管内皮細胞 / ワクチン / トランスクリプトーム |
研究開始時の研究の概要 |
ウナギのウイルス性血管内皮壊死症は養鰻産業における重要疾病の一つである。本研究では、原因ウイルス(JEECV)に感受性・非感受性の細胞でトランスクリプトームを比較し、また感染魚における遺伝子発現を時系列的に解析する。これによりウイルス・宿主間相互作用の理解を進め、特にウイルスの侵入門戸となる宿主側受容体の特定を試みる。得られた知見に基づき、低コストで培養可能なウイルス感受性細胞を作製し、これを用いて培養したウイルスから不活化ワクチンを試作、その効果を検証する。
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研究実績の概要 |
ウナギのウイルス性血管内皮壊死症は、Japanese eel endothelial cells-infecting virus (JEECV)を原因とする疾病であり、病魚は鰓や肝臓、腎臓など全身に出血・鬱血を生じ、重症時には死亡する。本研究では、ワクチン等の本病への対策の開発を見据え、ウイルス培養手法の開発を試みるとともに、JEECVのウナギの細胞への感染機構の解明を目指す。 2年目となる今年度は、前年度に樹立したウナギの血管内皮細胞株と、これを用いて培養したJEECVを使用した実験を主に実施した。 JEECVの増殖適温に関し、前年度より試験温度および時点を増やして試験した。培養開始当初のウイルスDNAの増加は30℃で速かったが、5日目には25℃でも同等の値となった。35℃では増加はほとんど見られず、35℃でウナギに症状や死亡が起きにくい一因と示唆された。ウナギの腎臓由来の細胞株であるEK-1に対しても感染を試みたが、ウイルスDNAの増加は認められず、JEECVはEK-1に感染しないと考えられた。 ウイルスに感染させていない血管内皮細胞およびEK-1細胞からRNAを抽出し、RNA-seq解析を行った。現在得られた配列の解析を進めているが、血管内皮細胞ではEK-1と比較して細胞膜上の種々の受容体やタイトジャンクション等に関わる遺伝子が高発現であることを示唆する結果が得られている。これらの遺伝子は細胞のJEECVへの感受性を規定する因子の候補と考えられる。 また、JEECVに対する消毒剤の効果に関する試験を実施した。培養ウイルスを各消毒剤で処理した後、血管内皮細胞に添加した。結果、エタノールは50%以上、次亜塩素酸ナトリウムは20 ppm以上であれば1分間の処理でもウイルスが不活化されることが示された。これは養鰻場でのウイルスの蔓延防止に有益な知見と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウナギの血管内皮細胞を前年度から継続して長期間培養することができており、安定して研究を実施できている。これにより、ウイルスの増殖適温やウイルスに対する消毒剤の効果など、養鰻におけるウイルス対策にも有益と考えられる知見を得ることができた。 また、JEECVの細胞への感染機構の解明のため、感受性・非感受性の細胞を用いてトランスクリプトーム解析を実施し、ウイルス感受性に関与する可能性のある遺伝子を絞り込むためのデータを得ることができた。 加えて、ウナギの血管内皮細胞の培養に現在はHuMedia-EB2 + EGM-2を用いているが、この一部をより安価なDMEM + 20% FBSに置換して培養を試みた。その結果、2/3をDMEM + 20% FBSに置換した培地でも細胞の増殖が確認でき、継代にも成功している。これは細胞およびウイルス培養の低コスト化を期待できる結果と言える。 さらに、前年度に実施した、病魚の飼育水を介したJEECVの感染について執筆した論文が国際誌に受理されている。 これらの点から、本研究課題についてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得たトランスクリプトームデータにおいて未感染の感受性細胞と非感受性細胞の間で発現に差のあった遺伝子群については、各遺伝子の機能について情報の収集を進め、ウイルス感染の受容体候補となりうる遺伝子をさらに絞り込む。また、選抜した各遺伝子に対してプライマーを設計し、RT-qPCRにより培養細胞における発現の傾向を確認する。 今年度はウイルス感染細胞のトランスクリプトーム解析も実施したが、非感染細胞と比較したときの発現変動遺伝子数が少なく、感染に用いたウイルス量が少なかった可能性が考えられた。次年度は用いるウイルス量を増やし、再度解析を実施予定である。JEECV側の遺伝子についてはウイルス培養時の経時的な発現定量に加え、Hisタグ等で標識した組換えタンパク質を作成し、免疫沈降等によって相互作用する宿主側のタンパク質を分離することを検討する。 また、培養JEECVを用いてウナギに注射または浸漬攻撃を行い、経時的に各臓器をサンプリングして経時的に各臓器をサンプリングし、個体内でのウイルス感染の広がり方についてqPCRおよび病理組織学的解析により調べる。サンプリングした各臓器からはRNAも抽出し、JEECVに対するウナギの免疫系の反応など、in vivoでの遺伝子発現変動を調べる。さらに、培養JEECVをホルマリン等で不活化後にウナギに投与し、不活化ワクチンとしての効果が得られるか検討する。 DMEM + 20% FBSに一部置換した培地で培養中の血管内皮細胞については、さらに置換を進め、DMEM + 20% FBSのみの状態で培養できないか試みるとともに、通常の培地での培養時と細胞の増殖速度あるいはウイルスの増殖速度の比較を行う。
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