研究課題/領域番号 |
22K14956
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分41010:食料農業経済関連
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研究機関 | 東京大学 (2023) 名古屋大学 (2022) |
研究代表者 |
上田 遥 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (20885313)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 食の貧困 / 潜在能力 / 多次元型貧困 / 食料政策 / 潜在能力アプローチ / フランス / 地域圏フードシステム / フード・インセキュリティ / 食支援 / 食の社会学 / 食の倫理学 |
研究開始時の研究の概要 |
現代社会における「食の貧困」は栄養的側面のみならず、トータルな側面から定義される必要がある。しかし現状、日本における貧困世帯の食生活の実態解明をねらう実証研究は少数であり、効果的な食支援施策立案のための方法論や基礎理論もまだ確立されていない。そこで本研究では(1)多大な資源制約下にある貧困世帯について、食の社会学と倫理学(潜在能力アプローチ)を基礎に開発した調査手法によってその食生活実態を解明し、(2)そこで得られたエビデンスを基礎に、食支援施策および「食の貧困」をめぐる基礎理論(社会学、倫理学、経済学)の体系化を試みる。
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研究実績の概要 |
2023年度は3つの研究を実施した。第一に、「食の貧困」測定手法の精緻化とそれをもとにした総括(論文化)である。本測定手法では、潜在能力アプローチとAlkire-Foster多次元型手法に基づき、食事回数・内容・場所などの多次元に分解して「食の貧困」を測定する。この際、各評価次元の「貧困閾値」をどう定義するかが課題であったが、sensitivity analysisを統合することで定義の恣意性を減じることが可能になった。調査成果のとりまとめについては、貧困シングルマザー9名を対象にした食生活実態分析、貧困・非貧困シングルマザー44名を対象にした「食の貧困」測定、全国市民973名を対象にした「食の貧困」測定に関する3論文として国際雑誌(Food Ethics、APJCN)に発表した。 第二に、食料政策の体系化の研究である。先進的な「食の貧困」対策を展開しているフランスの食料政策に関する文献分析を行い、その成果を国内誌『フードシステム研究』に発表した。また、こうした理論・実証的知見をもとに「食料・農業・農村基本法」改正をめぐる問題点を整理し、その成果を国内誌『農業経済研究』に発表された。一連の成果は、別科研費課題(食の豊かさ)の成果とあわせて『食の豊かさ 食の貧困:近現代日本の規範と実態』(24年夏季出版)としてまとめることができた。 第三に、こうして総括作業が比較的順調に進んだため、発展課題として食生活の国際比較調査に取り組むことができた。中国浙江省・広東省でフィールド調査を行い、食生活に関する長期統計・関連論文を渉猟するとともに、生鮮品小売店や卸売市場の実態調査を行った。また、韓国の消費者1,000名を対象にした食生活アンケート調査を実施した。別科研費課題ですでに実施していた同様の台湾・中国アンケート調査とあわせて、日台中韓国の4カ国の東アジアデータを揃えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の主な課題としていた「食の貧困」調査結果の総括について、当初想定していたよりも順調に論文化(国際誌3報)することができ、また資金的条件がクリアされたことで(科研費出版助成採択)学術書籍化することもできたため。また、年度途中で、世界的アジア研究の拠点である東京大学東洋文化研究所への異動が決まったことで、発展的課題として、中国や韓国などでの探索的調査を実施し、食生活の東アジア比較分析に進むことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、昨年度までに揃えることができた、日台中韓国の食生活に関する東アジア比較データ(各国約1,000名)の分析に注力する。一次集計の結果、すでにさまざまな興味深い知見が得られている。例えば、台湾の高外部化率、韓国の高欠食率、日本における食事面の時間的貧困と食事内容(菜数)の貧困、そして中国における崩食の(表面的)不在などである。これらは日本の「崩食」言説を相対化させてくれる。また、「一つのアジア」とされてきた東アジア内部の差異を丁寧に描くことで、食の近代化論に対する普遍的示唆を抽出することを目指す。こうした理論的議論を積み上げるには、食の社会学、またとりわけ東アジア比較に成果が多い家族社会学分野の先行研究を整理することも不可欠である。こうした一連の分析成果をもとに、年度内に論文化を目指す。なお、最終年度の研究費の大部分をすでに前年度に前倒し請求して使用したため(それによって研究の進捗自体が前倒しされているため)、本年度において大規模な調査実施(インタビュー、アンケート調査等)を新たにすることは予定しておらず、基本的には先述の東アジア比較研究に注力することとする。
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