研究課題/領域番号 |
22K15012
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
平野 港 長崎大学, 高度感染症研究センター, 助教 (30901029)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | アルボウイルス / ウイルス複製複合体 / RNA結合タンパク質 / 液ー液相分離 / 液-液相分離 / ウイルス複製 / 複製複合体 |
研究開始時の研究の概要 |
クリミア・コンゴ出血熱ウイルスによる感染症は致死的であり、治療法開発のため感染機構の基盤情報が必要とされている。本研究では同ウイルスはウイルス複製の場の形成に細胞小器官の膜を利用せず、RNA結合タンパク質とRNAの相互作用により構成物がゲルの様な物性として周囲と分離する液-液相分離を用いているとの仮説のもと、以下の解析を行う。1. 核タンパク質との結合因子を網羅的解析により同定し、液-液相分離による複製の場の構成要素、および形成機序を示す。2. 液-液相分離による複製の場形成がウイルス複製に与える影響を示す。本研究は膜に依存しないウイルス複製の場の形成機構解明の一助となることが期待される。
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研究実績の概要 |
ブニヤウイルス目は2/3分節(-)ssRNAをゲノムとして持ち、数多くの致死的な人獣共通感染症原因ウイルスが属す。代表例の1つであるクリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV) は最大30%の致死率となる出血熱を引き起こし、アフリカからユーラシアにかけ広く分布しており、本邦への侵入も危惧される。その感染機構は不明な点が多く、ワクチンおよびウイルス特異酵素/病態機構を標的とする治療法開発のための基盤情報が必要である。本研究では液-液相分離という現象に着目し、CCHFVの複製複合体形成機構の分子基盤の解明を試みる。昨年度には近位依存性ビオチン化酵素AirIDを用いることでCCHFV核タンパク質(N)と相互作用する宿主因子候補について網羅的な情報が得られた。本年度では、個々の宿主因子候補について性状解析を実施した。AirIDの結果を基に、タンパク質間相互作用データベースであるSTRINGTSによる解析を行った。結果、DNA損傷修復やRNA代謝に関わる分子複合体が複数、候補因子として得られていることがわかった。Nタンパク質はDNA切断酵素活性等を持つことが知られており、この活性の結果、宿主タンパク質が誘導されているものと考察された。また、クロマチン修飾に関わる宿主因子が複数得られ、これらについて詳細な解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、複製複合体形成を制御する、宿主因子の同定を主要な目標として解析を実施した。昨年度に実施したAirIDによるNに結合する宿主因子の網羅的解析の結果を基に、タンパク質間相互作用データベースであるSTRINGTSによる解析を行った。結果、DNA損傷修復やRNA代謝に関わる分子複合体が複数、結合の候補因子として得られていることがわかった。これらの因子はNと結合している確度の高い宿主因子であると考えられる。また、クロマチン修飾に関わる宿主因子が複数得られた。なかでもヒストンのアセチル化修飾制御を行うHDAC1についてより詳細な解析を実施した。これらの因子は間接蛍光抗体法によりNタンパク質の凝集構造にリクルートされる分布変化が観察された。また、遠心分離による細胞内フラクション分画により同様の現象が認められ、NはHDAC1の機能変化を引き起こすと考えられた。一方でこれらの因子のKD時にNタンパク質の細胞内局在の顕著な変化は認められず、依然、顆粒状の複製複合体形成は認められ、またミニゲノム複製量については顕著な変化は認められなかった。このタンパク質凝集は複製複合体形成に必須ではない現象であると考えられた。一方でNの発現によりHDAC1によるヒストン修飾変化が認められた。また、次世代シークエンス解析の結果、ヒストン修飾変化を示唆する遺伝子発現変化が認められた。よって、この凝集はウイルスによる病態形成に何らかの役割を持つと考えられる。さらなる機序の詳細については今後解析していく。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの解析により、ウイルス複製の負の制御因子(抗ウイルスタンパク質)については同定されたが、複製複合体形成に係わる、正の制御因子については見つかっていない。引き続き解析を継続し、形成に必要な因子の同定を試みる。また、次世代シークエンスのデータを更に解析し、Nの発現がRNA代謝に与える影響を解析する。また前年度までに相互作用が確認されている宿主因子であるZFP36については、TNF等のRNA代謝を制御する因子であることが知られている。レポーター系を構築し、変動の分子メカニズムを解析する。このレポーター発現系については作成が完了しており、スムーズに実施が可能である。Nタンパク質と相互作用をZFP36およびRNA分解を制御するNOT1経路に関わる因子をノックダウンした際のレポーターの挙動を観察し、RNA代謝変化を引き起こすメカニズムを示す。また、AirIDによるスクリーニングの結果、新規分子として細胞内におけるタンパク質の分布および液ー液相分離形成制御に関わる因子が同定されている。これら因子についてはそのタンパク質の性状よりNによる細胞内凝集および複製複合体形成に大きく関わる可能性が高く、優先的に解析を実施し、ウイルス複製の制御機構の詳細を解析していく。
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