研究課題/領域番号 |
22K15033
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分43010:分子生物学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鯨井 智也 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (70823566)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | クロマチン / 自然免疫 / DNA / cGAS |
研究開始時の研究の概要 |
自然免疫は外来DNAに対する防衛策である一方で、自己と非自己のDNAを適切に区別して応答しなければ自己免疫疾患を引き起こす。本研究では、自己DNAの実態であるクロマチン構造に着目して、クロマチン構造変換による自然免疫の制御機構を明らかにする。そのために、生化学的、構造生物学的手法を駆使して、核内に存在するクロマチン結合因子がクロマチン構造に与える影響と、多様なクロマチン構造と自然免疫DNAセンサーの相互作用を解析する。
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研究実績の概要 |
生物は、ウイルスなどの外来DNAに対する防衛機構として自然免疫を有している。一方で細胞は、自身の設計図であるゲノムDNAを持っている。真核生物において、ゲノムDNAはクロマチン構造を形成している。本研究では、クロマチン構造を形成したゲノムDNAに対して、自然免疫の応答が制御される機構の解明を目的とする。 自然免疫のDNA検知機構の中でも、cGAS-STING経路はその中心的な役割を果たす。この機構では通常、DNAセンサーであるcGASは、クロマチンを形成したゲノムDNAに対しては、自己応答回避のため不活化される。一方で、がんや老化細胞で見られる微小核や細胞質クロマチン断片に対しては活性化し、炎症反応を引き起こすことが明らかになりつつある。しかし、このようなクロマチンにおけるcGASの異常な活性化のメカニズムは不明である。本研究では、cGASが活性化している際のクロマチン構造に着目し、クロマチン再構成、クライオ電子顕微鏡構造解析、生化学的解析を駆使して、クロマチン構造におけるcGASの活性制御機構を解明する。本年度は、細胞質クロマチン断片に存在するcGAS制御因子が、cGASとクロマチン構造複合体に結合すること、そして、クロマチン構造を変換することを見出した。そこで、クロマチン構造変換機構を明らかにするため、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析を見据えて、cGAS-クロマチンとの複合体の再構成の条件を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、cGASとクロマチン、cGAS制御因子についての生化学的、構造生物学的解析を推進した。まず、cGAS制御因子について、大腸菌を用いてリコンビナントタンパク質として発現させ、アフィニティカラムやイオン交換カラムを用いることで精製した。次に、cGASとクロマチン、cGAS制御因子を混合し、ゲルシフトアッセイを行ったところ、3者複合体を形成することを発見した。特に、cGASにより形成される特徴的なクロマチン構造がcGAS制御因子によって大きく構造変化することを見出した。本知見は、cGASによるクロマチン構造変換がcGAS制御因子によって制御されることを示しており、cGAS制御因子が自然免疫だけでなく、遺伝子発現制御など、核内で起こる様々なプロセスに影響を与えうる重要な結果であると考えられる。そこで、cGAS制御因子による構造変換機構を明らかにするため、cGAS-クロマチン-cGAS制御因子複合体について、クライオ電子顕微鏡による立体構造解析を進めた。まず、cGAS複合体の精製系の確立を行った。スクロースと架橋剤の密度勾配遠心分離による精製法GraFixを用いた結果、cGAS複合体を安定化して精製することに成功した。次に、凍結試料を作成するために凍結装置Vitrobotを用いて、Blot timeなどの様々なパラメータを検討することで、良質な凍結試料を作製することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、cGAS制御因子がcGASやクロマチン構造を変換する機構を明らかにするため、cGAS-クロマチン-cGAS制御因子の構造解析を行う。具体的には、作製した凍結試料について、クライオ電子顕微鏡KriosG4を用いて、大量の顕微鏡写真を収集する。収集したデータについて、構造解析ソフトウェアRelionやCryosparcを用いて、3次元構造解析を行う。得られたデータに基づき、cGAS制御因子の相互作用を原子分解能レベルで明らかにし、構造モデルを構築する。得られた構造の解釈を確認するために、相互作用に重要なアミノ酸残基を変異したcGASやcGAS制御因子タンパク質を精製し、相互作用が失われることを確認する。今回確立した試料作成条件から構造決定に至らない場合には、試料作製の架橋剤や、電子顕微鏡グリッドを加工することで改善を試みる。並行して、cGASが合成する自然免疫の2次メッセンジャーであるcGAMPに着目して、今回見出したcGAS制御因子が、cGASによるcGAMP合成活性に影響を与える可能性を検証する。加えて、構造に基づき設計した変異がcGAMP合成活性に与えるついても野生型と比較して検討する。
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