研究課題/領域番号 |
22K15067
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分43030:機能生物化学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
野村 高志 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (40753645)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | アミロイド / 赤外分光法 / クライオ電子顕微鏡 / 構造解析 |
研究開始時の研究の概要 |
神経変性疾患の原因となるアミロイドの脱凝集反応について、時間分解赤外分光法およびクライオ電子顕微鏡を用いて分子レベルの動的構造解析を行う。赤外分光法では脱凝集反応のタイムスケールおよび、クライオ電子顕微鏡では観測できないアミロイドの「核」以外の部分のダイナミクスを明らかにする。一方、クライオ電子顕微鏡により、脱凝集過程におけるアミロイドの「核」の構造変化、各シャペロンの配位構造を明らかにする。加えて、脱凝集の結果生じるアミロイドの伝播体の構造を決定することで、アミロイドの脱凝集から伝播(病気の進行)を分子レベルで可視化し、そのメカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
本研究では、アミロイドの脱凝集過程におけるタンパク質の動きを分子レベルで可視化し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。その為に①酵母由来Sup35アミロイドの構造解析および②時間分解赤外分光測定の為の高速混合フローセルの開発を行なった。 Sup35が形成するアミロイドは2022年度に構造を決定した野生型2種(Sc4、Sc37)の他にS17R変異型(S17R-4、S17R-37)の2種が報告されている。これらは全て酵母の表現系が異なり、その性質に大きな影響を与えている。変異型アミロイドを安定的かつ均質な試料を得る事が難しかったが、試料調整法を改良する事で、S17R-37アミロイドの立体構造を分解能2.6Åで決定した。S17R-37は野生型Sc4およびSc37とは異なるアミノ酸領域でコアを形成し、その構造も全く異なる事が明らかになった。S17R-37のコア構造は中心に長いβストランドを持ち、それの両側をさらにβストランドで覆った強固な構造をとっている。また、コアを形成するアミノ酸領域は一部Sc37と共有しているが、構造に共通点はなかった。 赤外分光解析については新しいデザインの高速混合フローセルの開発に取り組んだ。2022年度の研究で、アミロイドの脱凝集には想定よりも長い時間を要したことが明らかになった。加えて、混合効率も既存の混合システムでは限界があったため新たなデザインを採用することにした。新しいフローセルは異なるパターンで溝が掘られた厚み5~10 μmの両面テープを積層することで立体的により複雑なパターンを形成することに成功した。それにより小分子からタンパク質まで様々な大きさの分子を高効率で混合することに成功した。一方で厚みが増したことにより、赤外スペクトルの一部が水の吸収でマスクされてしまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにクライオ電子顕微鏡の高分解能構造解析によって酵母由来Sup35が形成する4種類のアミロイドのうちSc4, Sc37, S17R-37、3種類の構造を決定する事ができた。これにより構造が異なるアミロイドをシャペロンがどのように認識し、どう脱凝集するのかを明らかにするための比較材料が増えた。残るS17R-4は均質なアミロイドを生成することには成功したが、高品質な測定グリッドが作製できず。高分解能での構造解析には至らなかった。現時点で観測できているのは分解能6Å程度の低分解能で決定した予備的なデータではあるが、そのコア構造はこれまでに決定した3種の構造とは異なるものであった。また、アミロイド/シャペロン複合体の構造解析ではアミロイドとシャペロンの混合比を変えて、データコレクションを実施したが、やはり結合したシャペロンがアミロイドコアをマスクしてしまい構造解析決定には至らなかった。 赤外分光解析については新しいデザインの高速混合フローセルを開発し、混合効率の向上に成功した。また、測定可能遅延時間を延長したことで脱凝集反応全体を追跡する事が可能となった。一方で、セルデザインを更新した事で試料調製条件を一部変更する必要があるが、大きな条件変更は必要ないと思われる。 以上のことから現在の進捗は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は①S17R-4のクライオ電子顕微鏡観察グリッドの品質向上、②アミロイド/シャペロン複合体の構造解析、③時間分解赤外分光測定用高速混合フローセルデザインおよび試料条件の微調整およびSc4以外のアミロイドとシャペロンの赤外分光解析を実施する。 ①線維がグリッド上に凝集する事が問題になっているので異なる素材のグリッドを利用する。また、界面活性剤等、主に試料のガラス化を改善する添加剤を利用してグリッドの品質向上を目指す。これらの改良で品質の改善が見込めない場合、現在の条件でも線維の観測自体はできているので、画像の撮影枚数を増やすことで高分解能解析に必要な線維数を稼ぐことにする。S17R-4の構造が決定できれば、Sup35が形成するすべてのアミロイドの構造が明らかになるので、最優先で進めたい。 ②これまではシャペロンを線維上に均一に結合させてアミロイド全体を覆うように試料を調製し、線維全体の構造を解析するよう進めてきたが、分解能は向上しなかった。そこで、シャペロンの量を減らし、シャペロン結合部位を分散させてシャペロンを中心に構造解析を進める方針へと転換する。 ③高速混合フローセルのデザイン変更に伴い、光路長が伸び、タンパク質の赤外シグナルが水のシグナルでマスクされるため、溶媒を重水に変更する。また、クライオ電子顕微鏡の構造解析に伴いSc4以外のアミロイドを安定的かつ均質に生成する事ができるようになったため、Sc4以外のアミロイドについても赤外分光法で観測する。それぞれのアミロイドはコア構造、アミノ酸領域が異なるため、脱凝集反応に違いが見られる事が想定される。特にS17R-37はシャペロン結合部位のかなり近い部分までアミロイドコアになっているため野生型とは大きく異なると考えられる。
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