研究課題/領域番号 |
22K15113
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
塩見 晃史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (60880557)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 1細胞RNA-seq / 機械特性 / 細胞表面張力 / 変形能 / 遺伝子発現 / エレクトロポレーション / トラックエッチド膜 / 細胞老化 / オミックス解析 / 膜張力 / 老化 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞膜の膜張力は、様々な生命現象において重要な表現型であると同時に制御因子でもあることが近年明らかとなってきた。しかし、膜張力の制御におけるこれらの制御因子の相互作用や詳細な分子機構には未解明な点も多く、また各細胞の膜張力の基準値の存在の有無や、単一細胞と組織内細胞での膜張力制御の差異、遺伝子発現変動と膜張力変動の因果関係などの根本的な問題が未だに解明されていない。そこで本研究では、細胞老化に焦点を絞り、細胞老化における細胞の膜張力の制御機構を解明するために、細胞の膜張力解析と遺伝子発現を同時かつ網羅的に行う新規解析法(ELASTomics法)の開発を目的とする。
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研究実績の概要 |
細胞の機械特性、特に細胞表面張力は細胞分化やガン化、老化といった様々な生命現象において重要な状態物理量として注目されている。しかし、生命現象における細胞の細胞表面張力と遺伝子発現を同時に解析することは技術的に困難であった。そこで本研究では、ナノポアエレクトロポレーション(NanoEP)によって一過的に生じる細胞膜のナノポアが細胞の細胞表面張力と相関する事を利用し、1細胞の細胞表面張力と遺伝子発現を大規模に統合解析可能な新規解析法(ELASTomics)を開発する。 今年度は開発したELASTomicsを用いて複製老化により様々な表現型を示すTIG-1細胞を複製老化させた際の老化の進行度と細胞表面張力の変化の統合解析を行った。その結果、FOSやCDKN1Aをはじめ多くの老化関連遺伝子が細胞表面張力と相関にあることが明らかとなった。その中でも今年度は、高い相関関係を示したRRAD (Ras Related Glycolysis Inhibitor And Calcium Channel Regulator)に着目し、siRNAや阻害剤を用いた確認実験によりRRADを介した糖代謝制御が老化に伴う細胞表面張力の増加に関わることを明らかにした。これら前年度と今年度の研究成果をまとめ、現在Nature Communicationsに投稿し2回目のReviseの段階である。 また、前年度問題の残ったDNAタグ付きDextran(DTD)の合成法の見直しを行い、ミセル形成界面活性剤TPGS-750-Mを用いたプライマーの濃縮とアミドカップリング法を併用することで、DTDを1反応かつ高効率に合成する方法を確立した。一方で、電荷の関係上、DTDと未反応物の除去が難しいという課題点も残った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は本研究の基盤となるELASTomicsの開発がほぼ完了し、実際にTIG-1細胞を用いた実験により細胞老化に伴う細胞表面張力の増加の原因遺伝子の同定が可能であることを実験的に証明できた。さらに、前倒しで細胞老化におけるRRADを介した細胞表面張力が増加する分子機構の同定し、これらの成果を論文としてまとめ、科学雑誌への投稿まで完了したため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は測定対象を1細胞から多細胞・組織へと発展させ、in vitro モデルであるMDCK細胞に対してELASTomicsを施行し、単層オルガノイドに対してもELASTomicsにより細胞表面張力と遺伝子発現の比較解析が可能であることを実証する。その後、薬剤による老化刺激や、老化細胞から抽出したSASP添加により、細胞を老化させた際の集団レベルで秩序だった細胞表面張力の制御変化とその分子機構について探索する。最後に、老化モデルマウスを用いて、ELASTomics法と空間遺伝子発現解析法を組み合わせた解析を行うことで、生体内における老化による細胞の機械特性変化とその分子機構についても解析する。 一方で、申請者が以前の研究で発見した複製老化の兆候を示さない魚類細胞の膜張力は哺乳類細胞と比較して非常に低い、という知見を元にELASTomics法を用いた魚類細胞と哺乳類細胞の比較を行うことで、老化における細胞表面張力の増加を回避するための新規分子カスケードの探索・同定も並行して行う。 また、今年度開発したDTDの現合成法を発展させ、Dibenzocyclooctyne (DBCO)とアジ化物を用いたClick chemistryを用いることで合成の効率を向上させるだけでなくDTD に核以降(NLS)ペプチドや蛍光分子といった機能を持った分子を容易に結合可能な新規合成法を確立する。
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