研究課題/領域番号 |
22K15273
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川名 裕己 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (40846672)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 網膜変性 / 脂肪酸アナログ / リゾリン脂質 / リン脂質 / 脂質代謝酵素 / 質量分析 / クリックケミストリー |
研究開始時の研究の概要 |
リン脂質分子はグリセロール骨格のsn-1位とsn-2位に2つの脂肪酸結合部位を持つが結合する脂肪酸の種類は2つの部位で異なる。このような脂肪酸種の偏りがリン脂質分子の機能発現において重要と想定されるがリン脂質sn-1位の脂肪酸種決定機構の解析は遅れていた。我々はこれまでの研究からリン脂質のsn-1位に対して特異的に脂肪酸導入する酵素を生化学的に同定してその解析を進めてきた。本研究では動物個体レベルにおいてこれら酵素が持つ生物学的意義を明らかにするとともに、その標的分子同定技術の開発を通じて個体から分子レベルでのリン脂質分子の機能発現機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
①LPLAT7/LPGAT1欠損マウスの網膜変性に関する表現型の詳細な解析を実施した。これまで全身性にLPLAT7/LPGAT1欠損したマウスにおいて進行性の網膜変性をきたすことを見出していたが、LPLAT7/LPGAT1は全身の組織に発現することから網膜変性の要因が網膜自体に発現するLPLAT7/LPGAT1が重要なのか不明であった。網膜特異的にLPLAT7/LPGAT1を欠損するマウスを作出し、網膜組織の観察を行ったところ、網膜特異的欠損マウスにおいても全身性と同様の網膜変性が観察されたことから網膜変性の原因は肝臓などの他の組織からのステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の供給不全ではなく、網膜組織自体でのLPLAT7/LPGAT1によるステアリン酸含有リン脂質の形成が重要であることがわかった。また、網膜組織において様々な細胞種のマーカー分子の免疫染色を行なったところ、多くのマーカー分子の発現や局在には異常は認められなかったが、視細胞が特異的に発現しているロドプシンの局在異常が組織変性が観察されはじめる生後3週齢より前の段階において観察された。このことからLPLAT7/LPGAT1を欠損した視細胞ではロドプシンの局在化や細胞内輸送系全般に異常が生じている可能性が示唆された。 ②特異的脂質近傍分子同定に向けたツール検討においては様々な構造を有するアルキン脂肪酸やアジド脂肪酸のリン脂質への取り込みを検討し、特定のリゾリン脂質アシル基転移酵素(LPLAT)に認識される脂肪酸アナログと対応するLPLAT分子の組み合わせを複数見出した。 ③新規PLA分子の探索においてはAdipoRの近縁分子であるPAQRファミリー分子のいくつかが過剰発現時に細胞内リゾリン脂質を上昇させる現象を見出し、PAQRファミリー分子が新規のリン脂質代謝酵素である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPLAT7/LPGAT1の欠損による網膜変性は網膜組織自体、特に視細胞に発現するLPLAT7/LPGAT1が作り出すステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の低下が表現型に寄与していると想定された。また、視細胞の細胞死による変性に先駆けて、視細胞において重要なロドプシンなどの細胞内局在の異常が見出され、細胞内輸送系とステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の関連を新たに見出すことができた。脂肪酸アナログを用いた解析系はやや進行が遅れているが特定のLPLAT分子に認識される脂肪酸アナログの候補を見出すことができた。新規PLA分子の探索においては培養細胞を用いた過剰発現系でPAQRファミリーの複数分子が強力なリゾリン脂質の蓄積能を有することを見出せた。またジアシル型リン脂質の脂肪酸分子種にも大きな影響がみられたことからPAQRファミリー分子はリン脂質代謝に関わる新規因子として非常に有望であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
LPLAT7/LPGAT1欠損マウスの網膜変性の解析においては細胞内輸送系とステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の関連が示唆されることから細胞内輸送系の機能評価を行う共にLPLAT7/LPGAT1が産生するステアリン酸(C18:0)含有リン脂質がどのような点に関わるのか解明を目指す。また細胞内輸送や細胞機能に関連したオルガネラの形態や機能を評価する目的として電子顕微鏡による解析を実施する。脂肪酸アナログを用いた解析系では生細胞におけるクリック反応、光架橋反応を検討し、特定の脂肪酸アナログを用いて近傍タンパク質の修飾が可能か検証するとともに特定のLPLAT分子近傍タンパクの同定を目指す。当初は探索的な位置付けとしていた新規PLA分子の解析であったが、予想外にPAQRファミリー分子がリン脂質の脂肪酸種規定に大きな影響を与える因子であることが想定されるため、研究対象の拡充を進める。培養細胞を用いた過剰発現系や機能抑制系において詳細なリン脂質分子種解析を実施し、リン脂質脂肪酸種決定への寄与を明らかにする。また、リコンビナントタンパク質を用いた生化学的な解析により直接的なPLA活性の特徴付けを実施する。また、ゼブラフィッシュを用いて欠損動物の作出を行い、生化学的な解析から個体レベルでの機能解析への展開を目指す。
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