研究課題/領域番号 |
22K15293
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分47040:薬理学関連
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
福島 圭穣 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 助教 (10805112)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 薬学 / 薬理学 / プロスタノイド / Gタンパク質共役型受容体 / バイオインフォマティクス / プロスタグランジン受容体 / 大腸がん |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ヒト大腸がんのEP4受容体高発現クラスターに着目し、EP4受容体がどの様に大腸がんを発生・悪性化させるのか、そのメカニズム解明を目指すものである。EP4受容体を特異的に高発現するヒト大腸がんHCA-7モデル細胞を用い、EP4受容体高発現クラスターに特徴的ながん発生・悪性化因子を同定する。そして、EP4受容体がこれらの因子をどの様に発現制御しているのか、そのメカニズムを明らかにする。本研究を遂行することで、将来の精密医療でEP4受容体高発現型と診断された大腸がん患者に対する、具体的な治療標的が明らかになるものと期待される。
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研究実績の概要 |
遺伝子ビッグデータの解析により、実臨床の大腸がんには、E型プロスタノイド(EP)受容体サブタイプの発現パターンが明確に異なるがんクラスターが存在する可能性が明らかとなった。本研究では、このEP受容体を特徴的に高発現する各がんクラスターに着目し、その発生・悪性化のメカニズムを明らかにすることを目的とする。 2022年度は、がんゲノムビッグデータの解析を完了し、実臨床の大腸がん組織にはEP4受容体の他にも、EP1、EP2、EP3受容体の高発現クラスターがそれぞれ存在することを明らかとした。これらのEP受容体高発現クラスターは、全大腸がん患者のおおよそ1/4を占め、その殆どは単一のEP受容体サブタイプのみを特異的に発現し、互いに異なる遺伝子発現パターンを示した。さらにこの内、最も特徴的な遺伝子発現パターンを示したEP3受容体について、その発現変動遺伝子を抽出して解析を行った。その結果、EP3受容体高発現クラスターは上皮系細胞マーカーの発現が低い一方で間葉系細胞マーカーの発現が高く、さらに上皮間葉転換(EMT)マーカー遺伝子の発現亢進が認められた。以上の結果より、EP3受容体高発現クラスターの大腸がんは、EMTを引き起こした後期がんである可能性が考えられた。同様の解析手法を用い、EP4受容体高発現クラスターなどの他のがんクラスターについても、現在解析中である。 さらに、EP4受容体刺激時の細胞応答を明らかにするため、EP4受容体を安定的に発現したヒトHEK293細胞をプロスタグランジンE2で刺激し、その後リン酸化されるタンパク質を網羅的に定量した。その結果、EP4受容体刺激によって有意にリン酸化される約800種類のタンパク質を同定した。これらのタンパク質についても、今後継続して解析してゆく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、がんゲノムビッグデータの解析を完了し、EP4受容体高発現クラスターを同定するだけではなく、実臨床の大腸がん組織にはEP4受容体の他にも、EP1、EP2、EP3受容体の高発現クラスターがそれぞれ存在することを見出した。さらに、これらのがんクラスターは、興味深いことにそれぞれ単一の種類のEP受容体サブタイプのみを高発現し、さらに互いに大きく異なる遺伝子発現パターンを示すことも明らかとした。2022年度はこの内EP3受容体高発現クラスターに特に着目して解析することで、このがんクラスターはEMTを引き起こした後の後期がんである可能性を報告することができた。EP1、EP2およびEP4受容体高発現クラスターについても同様の解析が実施可能で、2022年度はこれらEP受容体サブタイプの機能解析を行う上で重要な知見が得られたものと考えられる。 さらに2022年度は、EP4受容体を安定的に発現するモデル細胞に対してリン酸化プロテオミクス解析を実施することで、EP4受容体刺激時にリン酸化が亢進するタンパク質の解析も開始した。現在までに、EP4受容体のリン酸化応答因子としておよそ800種類のタンパク質を抽出済みである。これらのリン酸化プロテオミクスによる解析結果を、これまでの研究によって得られていたトランスクリプトーム解析結果と連携させることで、EP4受容体下流のシグナルをより詳細に解明できるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、実際の大腸がん組織において、EP4受容体高発現クラスターの同定とその発現変動遺伝子の抽出を完了し、さらにEP4受容体刺激時にリン酸化するタンパク質の同定を完了した。2023年度は引き続き、抽出された遺伝子の解析を進める。RNA-seqによって解析されたEP4受容体刺激時の遺伝子応答と、リン酸化プロテオミクスによって解析されたEP受容体刺激時のリン酸化パターンを比較し、EP4受容体下流の大腸がん発生・悪性化シグナルを具体的に明らかにしてゆく。抽出された各候補因子について、EP4受容体を安定発現したヒトHEK293細胞や、ヒト初期大腸がん細胞HCA-7細胞などのモデル細胞をPGE2で刺激し、刺激後の因子の発現誘導や活性化を評価する。各種シグナル阻害薬を用い、その上流・下流シグナルを明らかにしてゆく。 また、これまでに見出されている補体制御因子についても、モデル細胞を用いた実験により詳細に評価する。EP4受容体を種々の濃度・時間でPGE2で刺激し、その際の補体制御因子の発現量を比較する。遺伝子応答データベースなどを用い、補体制御因子の発現を誘導・抑制する可能性のあるシグナル阻害薬を抽出する。これらの阻害薬などを利用し、EP4受容体が補体制御因子の発現を制御する具体的なシグナル経路を明らかとする。さらに、がんモデル細胞を用い、補体制御因子の阻害や誘導が、大腸がんの増殖や悪性化にどの様に影響をおよぼすか評価する。 以上の実験などを施行することで、EP4受容体が大腸がんを発生・悪性化させるメカニズムを明らかにしてゆく。
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