研究課題/領域番号 |
22K15297
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分47040:薬理学関連
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
丸ノ内 徹郎 東京薬科大学, 薬学部, 講師 (50548500)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 慢性心不全 / Hsp90 / パイロトーシス / NLRP3インフラマソーム / シンバスタチン / 心不全 / 心リモデリング / タンパク質間相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
心不全進行の主因である心リモデリングに関与するHsp90クライアントタンパク質およびHsp90コシャペロンについて心不全モデル動物を用いた検討により明らかにする.さらにそれらタンパク質間の相互作用(結合様式や結合部位)についてAIを用いたin silico実験および合成タンパク質を用いたin vitro実験により解析する.得られた実験結果をもとにタンパク質間相互作用を阻害する化合物を探索し,Hsp90阻害による心リモデリングの抑制を作用機序とする新規心不全薬の開発を目指す.
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研究実績の概要 |
慢性心不全の進行には、心筋細胞死による収縮心筋の減少が一部寄与すると示唆されている。近年、心不全心臓において、プログラムされたネクローシス様細胞死のパイロトーシスが惹起されることが報告されている。パイロトーシスは、NLRP3インフラマソーム経路と称される細胞内情報伝達経路の活性化を介して、gasdermin DのN末端フラグメントによる細胞膜穿孔の形成によって引き起こされるネクローシス様細胞死とされている。NLRP3は、Hsp90 のクライアントの1つであることが知られており、Hsp90阻害薬の標的分子であると考えられている。そこで、Hsp90阻害薬を用いて各種解析を実施したところ、Hsp90阻害薬はHsp90とNLRP3の相互作用を減弱させなかったものの、NLRP3以降の細胞内情報伝達経路の活性化を抑制することが示された。そこで、Hsp90のコシャペロンのSGT1の相互作用について検討したところ、その解離が引き起こされていることが明らかとなった。したがって、Hsp90とクライアントタンパク質の相互作用のみならず、そのコシャペロンの機能に着目した検討が必要であると考えられた。 慢性心不全の病態の一つに、駆出率が保持された心不全“HFpEF”が知られている。既存の心不全治療薬の中でも、HFpEFに有効性を示す薬物はごく一部であり、新規治療薬の開発が求められている。そこで、前年度実施したHsp90阻害薬のドラッグリポジショニング研究の中で着目したHMG-CoA還元酵素阻害薬シンバスタチンについて、HFpEFへの有効性について検討したところ、TGF-βシグナル伝達経路の抑制を介して、HFpEF心臓における心線維化を抑制し、HFpEFの進行を低減しうることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性心不全心臓におけるHsp90の役割として、NLRP3への相互作用を介したパイロトーシスの制御の可能性を新規知見として提示した。さらに、NLRP3の活性制御においては、Hsp90とNLRP3との直接的な相互作用とは別に、Hsp90のコシャペロンによる修飾がNLRP3の活性制御に重要な役割を演じる可能性を示した。また、慢性心不全へのHsp90阻害薬の投与の作用メカニズムの1つとして、NLRP3インフラマソームの活性化の抑制による炎症の軽減と心筋細胞のパイロトーシスの抑制が寄与する可能性を提示した。 さらに、Hsp90阻害薬のドラッグリポジショニング研究によって見出されたシンバスタチンが、駆出率が保持された心不全(HFpEF)病態モデルマウスにおいて、Hsp90のクライアントタンパク質のTGFβ受容体を介するシグナル伝達経路を抑制することで心線維化を抑制し、HFpEFの病態の進展を遅延させることで有効性を示すことを提示した。 これらの実験結果は、いずれも新規の知見であり、今後の心不全治療薬の開発に寄与できるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、心不全心臓でのHsp90とHsp90クライアントタンパク質間の相互作用について検討を進め、その相互作用の制御することで新たな心不全治療法の開発を目指す。これまでに、複数種類のHsp90クライアントタンパク質が心不全の進行に寄与することを明らかにしてきた。すなわち、Hsp90阻害薬の効果は、多面的な作用を介して心不全に有益な効果をもたらしているものと推察される。さらに、Hsp90とクライアントタンパク質間の相互作用にHsp90とともに働くコシャペロンが重要な役割を担うことも明らかにした。 Hsp90阻害薬の複雑な作用の中において、特に心不全治療において有益な作用、あるいはその作用の組み合わせを特定することができれば、それが新規の心不全治療法の開発につながるものと考えられる。また、コシャペロンを含め、特定のクライアントタンパク質とHsp90との相互作用のみを抑制しうる作用機序の薬物の探索を行うことで、より有効性が高く、かつ副作用の少ない心不全治療薬の開発に寄与できるものと考えられる。 今後、上記のような観点から、心不全心臓におけるHsp90-クライアントタンパク質間相互作用に着目した新規治療法に関する研究を継続して実施したい。
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