研究課題/領域番号 |
22K15362
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柏木 彩花 北海道大学, 医学研究院, 助教 (60880002)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | Naイオン / Kイオン / エンドソーム / Na/Kイオン |
研究開始時の研究の概要 |
Na+とK+はエンドソームにおいて、内腔のpH変化に伴い濃度が受動的に変化するだけでなく、その容積変化や膜電位の形成などに対して能動的に関与することが近年明らかになってきた。しかし、エンドソームは融合と分裂を繰り返す動的な構造であり、一方のイオンもその濃度が絶えず変化する動的存在である(イオン動態)。したがって、エンドソームにおけるイオンの役割を根本的に理解するには、エンドソームの動態を捉えながら内腔のイオン濃度を測定し、操作する技術が必要である。本研究では、エンドソーム特異的なNa+とK+の測定法と操作法を開発し、エンドソーム内包物の選別・分解・再利用におけるイオン動態の寄与を明らかにする。
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研究実績の概要 |
Na+とK+は生体内における主要な陽イオンであり、形質膜を隔てたNa+とK+の濃度勾配は二次性能動輸送や神経活動などに重要な役割を果たしている。一方、オルガネラレベルでのNa+とK+の機能に関する知見は乏しい。オルガネラの一つエンドソームは、細胞外物質を取り込む小胞構造である。エンドソームの機能に関与するイオンとしては主にH+が注目されてきたが、近年、Na+とK+の直接的な関与が明らかになりつつある。本研究ではエンドソームのNa/K動態が細胞外物質の取り込み、エンドソームの輸送・融合・分裂や成熟にいつ・どのような寄与があるのかを解明する。 令和5年度は、昨年度NaCl置換のために使用したNMG-Clに加えてCholine-ClやRbClでも検証を行い、NMG-Clの場合と同様に、上皮成長因子(epidermal growth factor, EGF)刺激によって生じた初期エンドソームが速やかに微小管中心へ輸送され、初期エンドソームマーカー(early endosomal antigen 1, EEA1)が陰性になることを確認した。EEA1が陰性になる原因としては、後期エンドソームへの成熟のほか、エンドソーム膜にphosphatidylinositol 3-phosphate (PI3P)が無いことが予想された。そこで蛍光標識したPI3Pマーカーを観察したところ、Na不含培地でもEGF刺激によってPI3P陽性のエンドソームが形成されていた。また、腎、皮膚、気道上皮、子宮頸部上皮に由来する細胞種をNa不含培地に24時間おき、いずれの細胞種もコントロールと比較して細胞生存率が低下していないことを確かめた。Na不含培地で1時間培養した後にNa蛍光指示薬で染色したところ、コントロールよりも蛍光輝度が低く、Na不含培地への置換によって細胞質Na濃度が低下することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数のNa置換物質で初期エンドソームマーカーの消失と微小管中心への輸送が促進したことから、見られた現象がNMG-Clの作用によるものではなく、培地中のNaが欠失しているためであることが確かめられた。またPI3Pマーカーの観察によって、初期エンドソームマーカーの消失が成熟に伴うものであることが示唆された。Na蛍光指示薬の検討を行い、細胞内Na濃度を低下させる薬剤の存在下で蛍光輝度が低下する指示薬を選択し、Na不含培地に1時間おいた際に蛍光輝度が低下することを確かめた。また、腎、皮膚、気道上皮、子宮頸部上皮に由来する細胞種をNa不含培地で24時間培養しても細胞生存率はほぼ低下せず、細胞外で主要なイオンでありながら、細胞外に含まれていない状況となっても細胞のviabilityには影響がないという興味深い結果が得られた。これらのことから、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Na不含環境下でEGFを添加した際のエンドソームについて、実際にコントロールよりも早く成熟するのか、つまりpHが早く低下するのかを確認する。具体的には、pH指示薬で標識されたデキストランや、酸性オルガネラを標識する蛍光指示薬、あるいはH+感受性蛍光タンパク質を融合させたエンドソームマーカーの使用を検討している。また、細胞内Na+濃度が微小管の脱アセチル化を抑制するとの報告があるため、Na指示薬で染色した細胞をNa+不含培地に置換し、どの程度の時間で蛍光強度に変化が現れるのかを確かめ、エンドソームの輸送速度を上昇させているメカニズムを絞り込む。K+についても、K+センサーとエンドソームマーカーの組み合わせを検証するとともに、K置換培地におけるエンドソームや微小管、アクチン線維、モータータンパク質等のエンドソーム輸送に関与する因子のイメージングを行う。Na濃度測定については、Naの有無によって形態変化するタンパク質の探索を引き続き行うが、センサーの開発が難航した場合は既存の蛍光指示薬によってNa濃度を観察する。また、シュードタイプウイルスを用いて、NaやK濃度がウイルスのエントリーに与える影響を解析する。
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