研究課題
若手研究
ミトコンドリアは我々の体のエネルギーを生産する細胞内小器官であり、分裂と融合を繰り返す「ミトコンドリアダイナミクス」によって品質(機能)を保っている。ミトコンドリア心筋症患者細胞のミトコンドリア形状を調べたところ、複数の細胞株で共通する特殊なミトコンドリアダイナミクス異常を見つけた。本研究は、患者線維芽細胞-疾患iPSC成熟心筋細胞の研究から、ミトコンドリア心筋症の遺伝子変異に起因するミトコンドリアダイナミクス異常がミトコンドリア心筋症の病態基盤であることを証明する。また、この特殊なミトコンドリア形状異常を指標とした創薬探索がミトコンドリア心筋症に応用できるかを検討する。
ミトコンドリアは細胞内でエネルギー生成の中心となる小器官で、「ミトコンドリアダイナミクス」と呼ばれる分裂と融合を繰り返す形状変化を通じて機能を維持している。このシステムが壊れるとミトコンドリア機能が大幅に低下するため、ミトコンドリアダイナミクスはミトコンドリア品質管理の基礎であると考えられている。30例のミトコンドリア心筋症患者の細胞を調べた結果、一部のミトコンドリアが膨らんだ特殊なダイナミクス異常を発見し、この異常形態が心筋症の病態にどのように関わるのか?、また学術的にこの新しい異常形態が何であるのかを解析した。今回発見したミトコンドリア病患者由来線維芽細胞に存在する膨れ上がったミトコンドリアを、その形状的特徴からMito-ballと定義し、実験を進めた。BOLA3変異線維芽細胞を用いた実験では、Mito-ballが、そのほかの部位と機能的・分子局在的に極端に変化していることを突き止めた。またこのMito-ballはBOLA3変異のみならず、そのほかのミトコンドリア病由来線維芽細胞においても観察されるため、ミトコンドリア障害orストレス応答として高度に保存されいているシステムであることが予想された。さらにこのBOLA3変異線維芽細胞から疾患iPS細胞の樹立することに成功した。iPS細胞ではミトコンドリアの機能に依存しないエネルギー代謝が行われていることが言われており、線維芽細胞と比べてBOLA3-iPS細胞では極端なミトコンドリア機能変動などは観察されなかった。そして、このiPS細胞を用いて心筋細胞を樹立すことにも成功した。細胞株の間でばらつきはあるものの、線維芽細胞で観察されたMito-ball様の構造物が心筋細胞においても観察された。今後、線維芽細胞を用いた基礎的実験によってMito-ballの全容を明らかにし、病態とMito-ballの関連を明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
Mito-ballの全容解明では、電子顕微鏡を用いた解析を行い、既存で言われてきたミトコンドリア形態異常とは異なる構造体であることを確認した。また、生化学的な実験や蛍光観察などから、このMito-ballはミトコンドリアの外膜の異常というよりも、内膜構造の異常によって引き起こされている可能性を見出した。この観点から、Mito-ballを形成する因子として2つの因子を同定した。これらの因子と今回のようなミトコンドリア形態異常の関連性は報告されておらず、新規ミトコンドリア制御機構の解明につながると期待している。このようにMito-ballの形成機構に関する有力な情報が得られている。BOLA3-iPSCsでは、線維芽細胞のような顕著なミトコンドリア変化は観察されなかった。しかし、このiPS細胞を心筋細胞へ分化させると、Mito-ball様の構造が現れた。ミトコンドリア心筋症とMito-ballの病的関連性を示すにはiPS細胞由来の心筋細胞が必要であり、これらを調査する土俵が揃ってきたと言える。
Mito-ballの形成機構に関しては、新たに発見したMito-ball誘導因子を起点に、どのように・なぜMito-ballが形成されるのかを調べていく。また、BOLA3変異iPS細胞由来心筋細胞については、心筋細胞の機能評価を行い、疾患モデリングができているのかを評価する。線維芽細胞で効果のあったミトコンドリア賦活化薬や、Mito-ball誘導因子の変異体などを用いて、Mito-ballの形成をコントロールし、そもそもMito-ballは細胞にとって・ミトコンドリアにとって有益なものなのかどうかを解明していく。
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