研究課題
若手研究
ミトコンドリアは我々の体のエネルギーを生産する細胞内小器官であり、分裂と融合を繰り返す「ミトコンドリアダイナミクス」によって品質(機能)を保っている。ミトコンドリア心筋症患者細胞のミトコンドリア形状を調べたところ、複数の細胞株で共通する特殊なミトコンドリアダイナミクス異常を見つけた。本研究は、患者線維芽細胞-疾患iPSC成熟心筋細胞の研究から、ミトコンドリア心筋症の遺伝子変異に起因するミトコンドリアダイナミクス異常がミトコンドリア心筋症の病態基盤であることを証明する。また、この特殊なミトコンドリア形状異常を指標とした創薬探索がミトコンドリア心筋症に応用できるかを検討する。
ミトコンドリアは、生体内のATP合成をはじめ、細胞内のカルシウム濃度調節や炎症応答の調整など、多岐にわたる重要な機能を担うことが明らかになっている。ミトコンドリアの機能はさまざまな機構により調節されるが、特に注目すべきは、ミトコンドリア自身の分裂および融合を介して行われるミトコンドリアダイナミクスによる調節である。本研究では、20例以上のミトコンドリア疾患患者由来細胞を観察した結果、新たに発見した球状のミトコンドリア形態異常「Mito-ball」の評価を主な目的としている。患者由来線維芽細胞およびiPS細胞由来心筋細胞においても同様の形態異常が観察されたが、iPS細胞自体では顕著な形態異常は見られなかった。また、線維芽細胞において各種ミトコンドリア機能を評価し、Mito-ball形成と相関する因子を探索した結果、ATP量や活性酸素種よりも解糖系の亢進と強い相関があることが示唆された。代表的なミトコンドリア形態調節因子(Drp1, Mfn2, Mid49/51, Mff)については、今回の形態異常との相関はあまり観察されなかった。電子顕微鏡やライブイメージングによる観察から、Mito-ballは硬直した構造ではなく、融合や分裂を繰り返しながら形成される柔軟な構造を持ち、活性酸素種やmtDNAを戦略的に内包する機能を有していると考えられる。ミトコンドリア内膜の障害から内膜構造の崩壊によって、Mito-ballの形成初期が制御されていると推測される。現在、同じ変異を持つマウスモデルの作製にも成功しており、細胞実験の結果とマウスin vivoの結果を合わせることで、Mito-ballの機能と形成機構に関する理解を深めていきたい。
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