配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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研究開始時の研究の概要 |
本研究では,近年増加し肝細胞がんの前がん状態として着目されている非アルコール性脂肪性肝炎(Nonalcoholic steatohepatitis[NASH])の日米のヒトの臨床検体のエピジェネティック解析結果を比較し,日米それぞれに特異的にNASH由来肝発がんに重要ながん関連遺伝子・環境要因・遺伝素因を明らかにし, 異なる背景要因のもとでの発がん経路の多様性の実態を示す.さらには,日米に共通のNASH由来肝発がんに寄与している遺伝子を抽出し,強固な創薬標的候補の同定とコンパニオン診断マーカーの開発を目指す.
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研究実績の概要 |
2022年度には, 研究対象症例からのDNA抽出, メチローム解析をおこない, in silicoにおける統計学的解析により, 日米に共通する候補がん関連遺伝子であるB3GNT5・MOSC1・FUT4遺伝子を同定した. 2023年度は, まずは, 日米間で異なるDNAメチル化状態を示す候補がん関連遺伝子を同定した.その結果, in silicoにおける統計学的解析により, 日本人に特徴的なDNAメチル化状態を示す候補がん関連遺伝子としてZNF611, SAMD10, LIME1を同定した. 一方で, in silicoにおける統計解析とpathway解析にて, 米国人に特徴的なDNAメチル化状態を示す候補がん関連遺伝子としてSHC1, FGFR2, TRIB3, STAT5Aを同定した. 次に, 日米に共通する候補がん関連遺伝子, 日米で異なる候補がん関連遺伝子について, 遺伝子の発現量を, 正常肝組織, NASH, NASH由来肝細胞がん組織から抽出したRNAを用いてリアルタイムPCR法で評価し, 組織検体におけるDNAメチル化率がmRNA発現量と逆相関するかを確認した. その結果, 日米で共通する3つの候補がん関連遺伝子共に遺伝子発現量とDNAメチル化率との間に逆相関が確認された. 他方で, 日本人に特徴的なDNAメチル化状態を示す候補がん関連遺伝子では, ZNF611, SAMD10が, 米国人に特徴的なDNAメチル化状態を示す候補がん関連遺伝子では, SHC1, FGFR2, TRIB3が遺伝子発現量とDNAメチル化率との間に逆相関を示した. 以上の組織検体における解析により, 遺伝子発現量とDNAメチル化率との間に逆相関を示す遺伝子が, それぞれ真の候補がん関連遺伝子であると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度実施予定の研究項目として, 日米のコホート検体のメチロームデータを取得し, 主成分分析ならびに階層的クラスタリング等に供した後, NASH検体のDNAメチル化プロファイルに人種に基づく差異があるか明らかにすること, 日本人のNASH検体に特異的なDNAメチル化異常を示すCpG部位と,米国人検体(日本人以外の人種)のNASH検体に特異的なDNAメチル化異常を示すCpG部位をそれぞれin silico解析にて同定すること, 2023年度実施予定の研究項目として, 2022年度の結果をもとに候補がん関連遺伝子を同定することを挙げていた. 実際は, ほぼ予定通りに解析が進み, 日米に共通する候補がん関連遺伝子としてB3GNT3・MOSC1・FUT4の3遺伝子が同定された. 他方で, 日本人に特徴的なDNAメチル化状態を示す候補がん関連遺伝子としてZNF611, SAMD10が, 米国人に特徴的なDNAメチル化状態を示す候補がん関連遺伝子では, SHC1, FGFR2, TRIB3が同定された.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は, 肝がん細胞株,不死化肝細胞株において,候補挙分子について,siRNAやshRNAを用いたノックダウンあるいはTet on発現誘導システム等を用いた強制発現をおこなう.細胞生存能・増殖能・アポトーシス・接着能・浸潤能等,当該遺伝子の想定される機能に適したアッセイをin vitroで実施して,候補分子がtumor suppressiveあるいはoncogenicな機能を有することを確認する.さらに,ユタ大学ハンツマンがん研究所の協力を得,NASH組織およびNASH由来肝細胞がん組織から,当該遺伝子によって発現制御を受ける蛋白およびその蛋白の代謝関連蛋白の発現量の解析をおこない,DNAメチル化状態やmRNA量との相関性を確認する.これら当該分子のDNAメチル化状態やmRNA発現・蛋白発現と,NASHの程度・がんの悪性度・症例の予後との間の相関を検討して,多段階発がんの早期に起こりがんの発生に寄与する分子と,悪性進展に寄与する分子を同定し,NASH由来肝細胞がんの発生機序の理解を深める.さらに,これら候補がん関連遺伝子を創薬標的候補として同定し,分子標的薬の開発を目指す.
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