研究課題
若手研究
ATLの病態進展におけるCD30シグナルの意義を全ゲノムレベルで明らかにし、進展機序仮説を実証することで、CD30がATLにおける早期治療標的であるか検証する。ゲノム変異を惹起する因子を排除することにより、病態進展の抑制効果が期待される。実臨床に繋がる研究であり、得られた結果はCD30のモニタリングを基盤にした革新的診療体制の構築に資するものになると考えられ る。また本研究から得られた結果は、ATLのみならずCD30発現を特徴とするリンパ腫の腫瘍化メカニズムとして還元でき、CD30シグナルと腫瘍化機序の普遍的関係性を明らかにすると考えられる。
申請者らは、成人T細胞白血病(ATL)の病態の進展と共にCD30陽性ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染細胞が増加する傾向を示し、CD30リガンドを介したCD30シグナルは分葉核化、細胞増殖および染色体異常を誘導することから、病態の進行に直接関与し得ることを報告した。本申請研究は、申請者らの最新の研究である活性酸素種によるホジキン細胞およびリード・シュテルンベルグ細胞の分化誘導機構から発想を得ており、CD30を中心としたATLの病態進展機序としてゲノム不安定性の誘導機構を明らかにすることを目的とした。本研究よりCD30シグナルは、CD30発現量依存的に細胞内活性酸素種(ROS)を増加させることが明らかとなった。さらにCD30シグナルはCD30発現量依存的にDNA double-strand breaks(DSBs)を促進し、抗酸化物質の投与によりDSBsの亢進をキャンセルできることが分かった。これらの結果は、CD30シグナルがCD30発限量依存的に細胞内ROSの増加を介して、DSBsが促進することを示す。ATL細胞株および患者検体を用いて、CD30リガンドで長期刺激し、全ゲノム領域の染色体構造をCGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション)により比較した。その結果、有意に染色体レベルのGain/Lossを生じた領域が増加していた。抗酸化剤によりGain/Lossの増加がキャンセルされたことから、ROS-DSBsの誘導が、染色体異常を誘導させると考えられる。またこれらの結果は、一部の細胞集団がクローン増殖したことを示す。従って、CD30シグナルはROS-DSBsを介した染色体不安定性を惹起し、その結果クローン増殖を引き起こすと考えられた。DSB repair関連遺伝子に注目すると、ATLでは、病態の進展と共にこれらの遺伝子のLossが増える傾向が見られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、CD30を中心としたATLの病態進展機序としてゲノム不安定性の誘導機構を明らかにすることであり、我々は、ATLの腫瘍化メカニズムとして、「CD30シグナルはROS-DSBsを介した染色体不安定性を惹起し、クローン増殖を引き起こす」という結論を導いている。
CD30シグナルが腫瘍化機序に重要な分子の1つであることを示した。さらにCD30発現量依存的にシグナル伝達の出力の強さが変わることから、CD30の過剰発現メカニズムが腫瘍化の進展過程で重要なステップであると考えられる。一部のATLやALCLにおいて、CD30遺伝子座近傍はスーパーエンハンサーが形成されていることが知られているが、この領域をどのような転写因子が結合し、過剰発現に寄与しているか明らかではない。そこでCD30過剰発現メカニズムの解明に焦点を当て、CD30シグナルによるATL進展機序の解明を目指す。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
Cancer Science
巻: 114 号: 4 ページ: 1556-1568
10.1111/cas.15706
Commun Biol
巻: 5(1) 号: 1 ページ: 535-535
10.1038/s42003-022-03467-w