研究課題/領域番号 |
22K15622
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分51010:基盤脳科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
朴 志勲 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター, 研究員 (30790836)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 抑制性ニューロン / 複雑性 / 自己組織化 / スパイクニューラルネットワーク / 計算モデル / 抑制システム / 脳の発達・加齢 / fMRI解析 |
研究開始時の研究の概要 |
脳イメージング研究から運動課題中の脳で,課題と関連していない脳領域が抑制され,その抑制の度合いが発達・加齢によって変化することが知られている.本研究では,脳領域の抑制性ニューロンに注目し,局所的な興奮性と抑制性ニューロンの活動の違いが脳の運動機能発達・加齢での抑制システムの変化をもたらすと仮説を立て,計算モデルから検証する.さらに,ヒトの機能MRIデータのネットワーク解析を通じてモデルの妥当性を示し,脳の運動機能発達・加齢の包括的な理解を目的とする.
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研究実績の概要 |
興奮性ニューロンと抑制性ニューロンは脳の基本的な構成要素であり,健康な神経回路は興奮と抑制の均衡(E/I)がとれている.本課題では,脳の運動発達や加齢に伴い,局所的なE/Iの違いが抑制システムの変化と仮説を立て,スパイクニューラルネットワークを用いて調べることにする.また,ヒトのfMRIデータのネットワーク解析を通じた検証過程を含めて,構成的に理解することを目的とする. 当年度は,その基礎となるモデルを構築し,局所的なE/I均衡の崩れが神経ネットワーク内の結合の形成,神経活動の複雑性,また,外部入力に対する情報伝達に異常をもたらすことを示した.モデルは興奮性と抑制性ニューロンから構成されるニューロン集団を複数用いたネットワークであり,ニューロン間の結合はスパイクタイミング依存性可塑性則(STDP)によって自己組織化される.モデル内の局所的なE/I均衡を制御するため,一つのニューロン集団における抑制性ニューロンの数と抑制性シナプスの重みの値を変化させた.実験の結果から,抑制が弱い場合,過剰な結合が形成されと共に,過剰な結合をもつニューロン集団の神経活動の複雑性が減少することがわかった.また,外部入力に対するネットワーク全体での情報伝達が下がることがわかった.もし,モデルのニューロン集団を脳の局所領域と仮定すると,この結果は,抑制活動が弱くなることによって,脳領域の結合が密になり,外部からの入力,例えば感覚入力に対する領域間の情報伝達が障害されると解釈できる.この結果は,局所領域内のE/I均衡に関する生理学的パラメータが,STDPを通じた脳構造と機能の相互作用を支え,ネットワーク全体の情報伝達に寄与する重要な要因であることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目標を達成させるための基礎的なモデルの構築を終え,局所領域内のE/I均衡が,脳構造と機能の相互作用を支え,ネットワーク全体の情報伝達に寄与する重要な要因であることを示す実験結果を得た.この結果をオープンアクセスの海外学術雑誌に投稿し,アクセプトされた.これは,当初2023年度後期に予定していた論文投稿よりも早いものである.また,2年目の後半を予定していた,fMRI データのネットワーク解析を既に進めており,その結果に対して他の研究者と議論を交わしているところである.
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今後の研究の推進方策 |
今年度作成したモデルに筋骨格モデルを用いて感覚 (体性感覚)・運動系を実装し,強化学習を用いることで運動課題を達成できるモデルを構築する.その後,各ニューロン集団内の E/I 均衡を調整した上で運動課題を実装することで,課題の成績と自己組織化されたネットワークでの領域間抑制の関係を調べる. また,異なる年齢に対し運動課題中の脳活動を計測した Morita et al. [2019, 2021] の研究の fMRI データ解析を引き続き進めることにする.現在,負の因果関係を探索的に調べることができるDirectLiNGAM [Shimizu et al., 2006]を用いて解析を進めているが,他の手法として,Dynamic causal modeling [Friston et al., 2003]や情報理論に基づく解析なども検討し,手法の違いによる結果を比較することで,手法の妥当性や抑制システムの発達や加齢による変化を調べる.
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