研究課題
若手研究
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は成人男性のみに発症する進行性の遺伝性神経筋疾患である。本研究課題では、in silico解析を活用してSBMAの骨格筋病態の解明を目指す。SBMA細胞モデルおよびマウスモデルを用いた既存の遺伝子発現解析の結果を利用して、骨格筋病態の改善が期待される候補薬をin silico解析により抽出し、SBMA細胞モデルやマウスモデルに投与して病態抑止効果を評価した上で、変化している分子シグナルに注目して骨格筋の分子病態を解明する。またパスウェイ解析ならびに薬剤データベースを用いて、候補薬の作用機序および他の組織への潜在的な効能について解析する。
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は成人男性のみに発症する進行性の遺伝性神経筋疾患である。本研究課題では、in silico解析を活用してSBMAの骨格筋病態の解明を目指す。本年はSBMA細胞モデルおよびマウスモデルを用いた既存の遺伝子発現解析の結果を利用して、骨格筋病態の改善が期待される候補薬をin silico解析により抽出することを目標とした。1. SBMAモデルの遺伝子情報の収集SBMAマウスモデルの骨格筋に関する遺伝子発現解析データ(RNA-seqもしくはmicroarray)を5種類(前脛骨筋、大腿四頭筋など)取得した。そのうち一つはメスのSBMAマウスモデルのデータであった。またSBMA患者のiPSC-derived motor neuronの遺伝子発現解析データを3種類、SBMA患者の剖検組織の遺伝子発現解析データを1種類取得した。データ取得の条件(FDRやfold changeなど)を設定し、それぞれの発現変動遺伝子(DEG)を算出した。算出したDEGをLibrary of Integrated Network-based Cellular Signatures(LINCS)データベースに入力して、SBMAの病態と負の相関を呈する薬剤を抽出した。それらの薬剤の作用機序について各モデルで共通して抽出されるものを確認した。2. SBMAと脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子情報の比較SMAのマウスモデルの遺伝子発現解析データを取得し、上記と同様にSMAの病態と負の相関を呈する薬剤を抽出した。それらの薬剤の作用機序についてSBMA抽出されたものと比較した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題はSBMAにおける骨格筋の分子病態をin silicoで解明することを目指す。2022年度は、SBMA細胞モデルおよびマウスモデルを用いた既存の遺伝子発現解析の結果を利用して、骨格筋病態の改善が期待される候補薬をin silico解析により抽出した。SBMAの複数の細胞モデルおよび動物モデルにおける遺伝子情報を参照し、SBMAの病態と負の相関を呈する薬剤を複数選別した。それらの中には、我々が以前にSBMAの病態抑止効果を報告しているPPARγアゴニストやSrc阻害薬も含まれていた(Hum Mol Genet. 2015, Nat Commun. 2019)。またSBMAと同じく運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症の病態改善が期待されている薬物も含まれていた。それぞれの遺伝子情報からDEGを抽出する際、FDR値やfold changeの設定値によりDEGが変化するため複数の条件下で抽出を行った。またLINCSデータベースに入力するDEGの数についても複数の条件下で薬剤の抽出を試みた。SMAは、脊髄の前角細胞の変性を呈する下位運動ニューロン病である。SBMAと同様に筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする。SBMAとSMAの遺伝子情報を比較することにより、筋変性による病態と、SBMAの病原タンパク質であるアンドロゲン受容体(AR)が関与する病態の判別が可能となると期待される。
2022年度に抽出した、”SBMAの治療薬となりうる可能性がある薬剤”の作用機序を有する薬剤をSBMA細胞モデルに投与する。薬剤を決定する際には、細胞実験で使用するため水溶性であること、ヒトに応用しやすいように可能であれば既存薬から選択する。薬剤を複数の濃度に希釈してSBMA細胞モデルに投与し、WST8 assayによりviabilityを測定し、LDH assayにより細胞毒性を評価する。病態を改善させた薬物をSBMA治療薬の候補薬と考え、薬剤データベースを参考にして、候補薬の作用機序をウエスタンブロットやRT-PCRなどにより同定する。その後、候補薬をSBMAマウスモデルに経口投与もしくは腹腔内投与し、運動解析により病態への影響を評価する。運動解析では体重測定、握力測定ならびにロタロッド試験を行い、生存率を確認する。また、各週齢(発症前、発症前期、進行期)におけるSBMAマウスモデル脊髄の遺伝子発現データ(Minamiyama et al. Nat Med2012)を用いて、候補薬の脊髄への影響を解析する。候補薬が標的としている分子の変化に着目して、SBMAの脊髄に対する薬効を評価するとともに、骨格筋での遺伝子変化と共通する分子パスウェイを抽出する。さらに、名古屋大学医学部附属病院で研究協力者(勝野・山田)らのコホートで蓄積しているデータを用いて、候補薬を偶発的に内服している患者がいれば、非内服群と比較した臨床経過を解析し、候補薬のSBMA患者における効果を予測する。
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