研究課題
若手研究
本研究では、腸内細菌叢関連神経変性疾患患者の糞便の腸内細菌叢および腸内ウイルス叢のメタゲノム解析、遺伝子機能解析、およびメタボローム解析を行い、疾患群に特有の腸内微生物叢の組成や機能変化を見出すことを目指す。さらに、治療標的となる共生病原腸内細菌を同定し、その制御のために、標的細菌ゲノム上の溶原ファージ配列から溶菌酵素配列を抽出することによって次世代ファージ療法の基盤情報を取得する。腸内細菌叢の機能変化に対応した補充戦略やファージ酵素を用いた共生病原腸内細菌排除による革新的な治療法の創出を目指す。
腸内では腸内細菌やバクテリオファージ(ファージ)が相互関係を保ちながら恒常性を維持している。腸内細菌叢は、ビタミンや補酵素、アミノ酸、脂肪酸、神経伝達物質の生合成など、宿主であるヒトにとって有益な機能を有して共生していることから、「もう一つの臓器」ともいわれ、近年では腸内細菌叢の破綻(ディスバイオーシス)がパーキンソン関連疾患やアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患の病態へ関与する可能性も示唆されている。腸内細菌叢の遺伝子のショットガンシークエンシング(長い遺伝子配列を短いランダムな断片としてクローニングして配列決定したのちに、断片のオーバーラップ部分をコンピュータ解析により結合し、元の長い配列を再構築する手法)によって、全メタゲノム解析を行えば、腸内細菌叢を構成する細菌種を同定し、なおかつそれらの菌の持つ遺伝子がコードする蛋白質の機能、および各遺伝子の相対的存在量(アバンダンス)を調べることができる。本研究の目的は、パーキンソン関連疾患やアルツハイマー型認知症患者の糞便サンプルの腸内細菌叢のメタゲノム解析により疾患に特徴的な腸内細菌叢の破綻(ディスバイオーシス)を同定すること、および、糞便のメタボローム解析および腸内細菌叢の遺伝子機能解析を併せて行うことにより、疾患において相対的に機能低下する代謝経路や、異常に亢進する代謝経路、細菌による薬剤の分解経路、細菌由来アミロイドの生合成などの、疾患群に特有の変化を見出し、治療標的となる共生病原腸内細菌(パソビオント)およびその代謝経路を同定することである。さらに、同定したパソビオントを制御するため、標的細菌ゲノム上の溶原ファージ配列から溶菌酵素配列を抽出することによって次世代ファージ療法の基盤情報を取得することである。
2: おおむね順調に進展している
先行研究ではアルツハイマー型認知症およびパーキンソン病関連疾患患者の糞便サンプルおよび健常人の糞便サンプルを取得し解析したが、本研究ではさらにサンプル数を増やし、得られた糞便サンプルからの微生物叢の遺伝子抽出を行い、次世代シークエンサー解析により塩基配列を決定した。健常者群と疾患群での細菌叢の遺伝子機能の違いを明らかにするためパスウェイ解析を行った。また、遺伝子解析用の糞便と同一のサンプルについて、メタボローム解析を行い、患者糞便中で低下・上昇する代謝物の有無を探索した。さらに、メタゲノム解析によりディスバイオーシスに最も寄与すると考えられる菌種についてプロファージ配列を探索し、その配列中にあるエンドライシン等の溶菌酵素配列を検索した。さらに、国内外の既存のコホートの多数のメタゲノムデータを解析し、本研究の結果と比較して検討した。以上のように実験計画通り概ね順調に進展している。
疾患群において疾病に関わりうるパスウェイに寄与する菌を同定して培養し、その菌に特異的な溶菌酵素の蛋白質の生成を行い、特異的溶菌効果を検証する。
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Bioinformatics
巻: 39 号: 10
10.1093/bioinformatics/btad622
Inflammation and Regeneration
巻: 43 号: 1 ページ: 55-55
10.1186/s41232-023-00305-2