研究課題
若手研究
大腸がんの粘膜下層(SM)への浸潤・転移は、早期がんの治療方針を決定する上で重要な問題であり、正確な予測マーカーや新規治療標的の同定が必要である。本研究は、早期大腸がんの微小環境におけるserum amyloid A1 (SAA1)シグナルの全容を明らかにすることで、SMがんの浸潤・転移メカニズムを解明し、新規診断・治療法の開発につなげることを目的とする。そのために、①大腸がん細胞、マクロファージ、好中球におけるSAA1の相互作用分子や下流標的を明らかにする、②SAA1シグナルの診断・治療標的としての有用性を検証する。
大腸がんにおけるSAA1の機能を解析するため、まず大腸がん細胞株を用いてsiRNAによるSAA1のノックダウン実験を行った。MTTアッセイの結果、SAA1ノックダウンは大腸がん細胞の増殖に影響を与えなかったが、遊走能・浸潤能を低下させた。逆にSAA1の過剰発現は大腸がん細胞の遊走能・浸潤能を促進することが、Boydenチャンバーアッセイおよびコラーゲンゲル浸潤アッセイから確認された。さらにSAA1を過剰発現した大腸がん細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ解析し、MYCシグナルや細胞周期に関する遺伝子群の発現が誘導されることを見出した。次に大腸がん細胞においてSAA1発現を誘導するメカニズムを解析した。SAA1発現を誘導するサイトカインとしてインターロイキン1β (IL-1β)が知られている。大腸がん細胞株をリコンビナントヒトIL-1βで処理した結果、SAA1発現の誘導が確認された。またIL-1β処理は大腸がん細胞の遊走・浸潤能を促進したが、その効果はSAA1ノックダウンにより減弱したことから、IL-1βはSAA1の誘導を介して大腸がん細胞の遊走・浸潤を促進すると考えられた。大腸がん微小環境においてIL-1βを産生する細胞として線維芽細胞、マクロファージ、好中球などが考えられる。我々は、ヒト単球性白血病細胞THP-1をphorbol 12-myristate 13-acetate (PMA)で処理し、マクロファージ様細胞を誘導し、大腸がん細胞との共培養実験を行った。その結果、共培養によりマクロファージ様細胞ではIL-1β発現が誘導され、大腸がん細胞ではSAA1発現が誘導されることを明らかにした。また大腸がん臨床検体の免疫組織染色から、早期大腸がん浸潤先進部においてマクロファージがIL-1βを発現し、その近傍の大腸がん細胞がSAA1を発現することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
大腸がん細胞におけるSAA1の機能解析を行い、SAA1が遊走・浸潤を促進することを明らかにした。またSAA1が大腸がん細胞の遺伝子発現プロファイルに与える影響をマイクロアレイ解析し、基礎的なデータを取得することができた。さらにマクロファージと大腸がん細胞の相互作用がSAA1発現を誘導し、大腸がん浸潤を促進することを示す結果を得ることができた。
大腸がん細胞とマクロファージの共培養実験系を用いて、マクロファージがSAA1発現を誘導するメカニズムをさらに明らかにする。またマイクロアレイデータから、大腸がん細胞におけるSAA1の分子機能をさらに明らかにする。また、臨床検体をさらに収集・解析し、浸潤先進部におけるSAA1および関連遺伝子発現を詳細に検討する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件)
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