研究課題/領域番号 |
22K16002
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
杉村 直美 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (70895325)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 大腸癌 / 腫瘍溶解性ウイルス / 免疫療法 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、ウイルスによる抗がん免疫活性が注目されている。がん細胞はウイルスに破壊される際にDAMPsと呼ばれる分子群を放出し、がん抗原として免疫細胞に認識され抗がん免疫が活性化される。ウイルスによる抗がん免疫活性は免疫原性が乏しい腫瘍、いわゆるcold tumorに対して強力な治療ツールとなりうるが、その有効性は限定的である。本研究は大腸がんを対象に、腫瘍溶解性ウイルス、レオウイルスによるがん微小環境における免疫応答を検証するとともに、レオウイルスによるがん免疫応答を増強させ強力な抗がん作用をもたらす複合免疫療法の開発につながるものである。
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研究実績の概要 |
本年度は、マウス大腸がん細胞株を用いたレオウイルスおよびSTING agonist, ADU-S100の有効性について、in vitroおよびin vivoでの検証を行う。またレオウイルスにより免疫原性細胞死(ICD;immunogenic cell death)がもたらされるかについても検証する。 マウス大腸がん細胞株としては、CT26およびMC38を用いる。レオウイルスの有効性について、各細胞に、1MOI,3MOI,10MOI濃度のレオウイルスを感染させ、感染後24時間、48時間、72時間後に細胞増殖アッセイによりレオウイルスの有効性を評価する。同様に、培養液中にSTING agonist, ADU-S100を添加し、その有効性について検証する。 レオウイルスによるICDについては、レオウイルスを感染させた細胞の培養液中のATP、HGMB-1を計測することで評価する。 マウスを用いた実験では、免疫力の保持されたBALB/cマウスの皮下にCT26を移植する同種移植マウスモデルを用いる。まずは、マウスに移植したCT26が腫瘍を形成したところで、腫瘍内に直接、レオウイルスを投与し、腫瘍増殖抑制能を評価する。STING agonist, ADU-S100についても同様に、担がんマウスに投与し、腫瘍増殖抑制能を評価する。さらに、レオウイルおよびADU-S100を併用投与したマウスの腫瘍についても増殖能を評価する。また、レオウイルス、ADU-S100による腫瘍増殖抑制効果だけではなく、腫瘍細胞に与える影響を免疫染色により評価する。これらの抗腫瘍薬を投与後に、マウスから腫瘍を摘出する。ホルマリンで固定後に、Ki67、Cleaved Caspase-3、Granzyme Bの免疫染色を行い、細胞障害の誘導、抗腫瘍免疫の誘導について評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CT26、MC38にレオウイルスもしくはADU-S100を暴露した後、細胞増殖アッセイを経時的に行い、抗腫瘍効果を評価した。CT26、MC38はともに濃度依存的にレオウイルスにより増殖が抑制され、ADU-S100は増殖抑制効果を示さなかった。 レオウイルスによるICDについて、ATP、HGMB-1の測定により検証した。CT26をレオウイルスで処理し、48および72時間後に細胞培養上清を回収した。培養上清中に放出されたHMGB1を、HMGB1 Detection ELISA kitを用いて検出し、同様に、細胞外ATPをRealTime-GloTM細胞外ATPアッセイを用いて測定した。培養上清中のHGMB-1濃度、細胞外ATPはレオウイルスへの暴露72時間後で、有意に増加していた。以上の結果から、レオウイルスはCT26にICDを誘導することが示された。 マウスを用いたがん免疫応答の検証実験の準備として、CT26をBALB/cマウスの皮下に移植し、レオウイルスおよびADU-S100による腫瘍増殖の抑制効果の評価および、Ki67、Cleaved Caspase-3、Granzyme Bの免疫染色による細胞死の誘導メカニズムを検討した。移植したCT26は腫瘍を形成し経時的に増殖を示した。レオウイルスもしくはADU-S100を腫瘍内に直接投与したところ、ともに腫瘍増殖を有意に抑制したが、マウスの生存延長はみられなかった。免疫染色では、レオウイルス、ADU-S100投与群では、Ki67の発現が有意に低下し、Cleaved Caspase-3、Granzyme Bの発現は有意に上昇していた。以上から、レオウイルスおよびADU-S100は、CT26を用いた同種移植マウスモデルにおいて腫瘍増殖を抑制し、そのメカニズムとして、NK細胞、細胞傷害性T細胞による抗腫瘍免疫作用が関与していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、レオウイルスによる抗腫瘍免疫応答をさらに詳細に検討するため、マウス大腸がんモデルであるdual flank modelによるレオウイルス、ADU-S100の有効性の検証、レオウイルス、ADU-S100投与後の腫瘍微小環境をFACSやトランスクリプトーム解析を用いて詳細に検討する。また、マウスモデルを用いたRechallenge systemによる腫瘍免疫応答の評価を行う。 Dual flank modelでは、BALB/cマウスの左右の2箇所の皮下にCT26を移植する。一方の腫瘍にレオウイルス、ADU-S100単独をもしくは併用で投与し、腫瘍増殖抑制能を検証する。これまでの検討から薬剤を投与した腫瘍については、レオウイルス、ADU-S100および、これらの併用による腫瘍増殖の抑制を確認しているが、この実験では、薬剤を投与していない側の腫瘍への効果を測定し、各薬剤による抗腫瘍免疫応答を検証する。本年度に施行した腫瘍移植モデル(マウスの皮下、一箇所に腫瘍を移植)と同様に、薬剤投与後、両側の腫瘍を摘出し、レオウイルス、ADU-S100投与による抗腫瘍免疫応答を検証する。免疫染色による、細胞障害、抗腫瘍免疫の誘導の評価に加えて、FACSを用いた、腫瘍微小環境における免疫細胞のプロファイリングを行う。さらに、腫瘍からmRNAを抽出し、遺伝子発現解析を行う。遺伝子発現解析では、がん免疫に関連した免疫応答遺伝子と免疫細胞マーカー770遺伝子を対象としたパネルを用いて、ダイレクトデジタルカウントを行い、レオウイルス、ADU-S100による抗腫瘍免疫応答のメカニズムを解析する。Rechallenge systemでは、マウスの皮下腫瘍をレオウイルス、ADU-S100単独もしくは併用で治療した後に再度腫瘍を皮下に移植し、腫瘍形成能を観察し、薬剤によるがん免疫応答の誘導を評価する。
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