研究課題/領域番号 |
22K16018
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂口 大起 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (70897876)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | 炎症性腸疾患 / 炎症性発癌 / シングルセルゲノミクス / オルガノイド |
研究開始時の研究の概要 |
傷害上皮の脱分化は発癌との関連が示唆されているが、炎症性腸疾患(IBD)における異常脱分化と炎症性発癌との関連性は未だ明らかにされていない。また脱分化にはエピゲノム制御変化が関与するとされているが、IBDに特異的なエピゲノム異常と脱分化との関連性を検討した報告も皆無である。本研究ではIBDの外科切除検体から腸管上皮細胞を精製し、シングルセルレベルでトランスクリプトームおよびエピゲノム解析を施行して疾患特異的な異常脱分化細胞を探索する。その細胞集団の発生機序ならびに炎症性発癌との関連性を解明し、癌化を抑制しながら脱分化を促して組織修復を早めるというIBDの新たな治療ストラテジーの開発も目指す。
|
研究実績の概要 |
令和4年度には潰瘍性大腸炎(UC)ならびに非炎症性腸疾患(非IBD)、それぞれ5患者ずつの大腸外科切除検体から精製した上皮を用いたシングルセルRNAシーケンシングを施行し、全患者のデータを統合した上で2群間の発現プロファイルの比較を行うことで、UC固有の発現プロファイルを示す未分化細胞集団が再現性を持って含まれることが確認できた。 さらにこのUC固有未分化細胞集団において特異的に発現している分子の一部は、UC患者検体から樹立したオルガノイドにおいてもその発現亢進が維持されることから、UC患者の大腸上皮組織における幹細胞には、このUC固有未分化細胞の発現プロファイルが自律的に誘導されるようなジェネティックもしくはエピジェネティックな不可逆的変化が細胞分裂を跨いで保存されていることが示唆された。またこのようなUC特異的遺伝子の発現はオルガノイドの培養期間依存的に発現の亢進度合いが増幅されていく傾向も見出されたことから、このような不可逆的変化を受けている細胞は正常幹細胞由来の細胞に比べて分裂活性が高く、培養の過程において細胞競合に打ち勝って全細胞中に占める割合が増していっている可能性も示唆されている。 さらにこのUC固有未分化細胞で発現が亢進している遺伝子の中には他臓器において発癌との関わりが報告されているものが複数含まれており、またパスウェイ解析でも細胞外マトリックス再構築や細胞増殖など、組織修復ならびに癌化との関わりが強く示唆されるものが挙がってくることから、我々はUC固有未分化細胞が腸炎関連大腸癌発生の素地になっている可能性を想定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、シングルセルRNAシーケンシングによってUC特異的な上皮細胞集団を見出し、さらにその特徴的な発現プロファイルがオルガノイドでも維持されることからこの細胞集団の出現には炎症刺激など一過性の外来シグナルだけではなく、上皮細胞自身におけるジェネティックもしくはエピジェネティックな不可逆的な異常が関与している可能性までを見出すことができていることから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
UC固有未分化細胞の出現を誘導するようなジェネティックもしくはエピジェネティックな異常の詳細を明らかにすべく、UC患者由来のオルガノイドを一定期間培養を続けてUC固有未分化細胞とそのソースとなっている異常幹細胞の占める比率を相対的に高めておいた上で、全ゲノムシーケンシング、バイサルファイトシーケンシング、さらにはATACシーケンシングも施行してUC固有の変化を網羅的に探索していく予定としている。 またこのUC固有未分化細胞が出現することの病的意義に関しては、腸炎関連大腸癌発生の素地になっている可能性を想定している。UC患者では大腸癌の合併率が高いことが知られており、またこの腸炎関連大腸癌では癌抑制遺伝子p53は通常の孤発性の大腸癌と同様に高頻度に変異をきたしている一方で、もうひとつの代表的な大腸癌関連癌抑制遺伝子であるAPCの変異の頻度は極めて低いなどドライバー変異のプロファイルが大きく異なることから、そもそも発癌のプロセスに違いがあることが示唆されているがその詳細は未だ明らかとはなっていない。UC患者が急増している現状を鑑みれば今後大腸癌患者においてもこの腸炎関連発癌の比率が急増していくことは想像に難くなく、その発生プロセスの詳細を明らかにすることは極めて意義の高いことと考えられる。UC固有未分化細胞の癌化ポテンシャルを評価すべく、正常オルガノイドとUC患者由来オルガノイドにCRISPR/Cas9システムを用いてp53の変異を誘導し、増殖能やWNTシグナルへの依存性などを比較することを計画している。
|