研究課題
若手研究
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は詳細な病態が未解明の難治性疾患であり、新たな病態制御機構の解明が望まれる。性ホルモンであるエストロゲンはPAHの病態制御に関与することが知られているが、その効果は報告ごとに相違がある。これはエストロゲンが多様な生理作用を有することが一因であり、その全容解明には様々な視点から作用機序を分類し評価することが必要である。本研究ではエストロゲンの持つ体血管保護作用において近年重要性が見いだされつつある非ゲノム経路(non-genomic pathway)に着目し、同経路のPAHにおける機能の同定を通じ、エストロゲンの病態制御機構の解明に資する新たな知見を得ることを目指す。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)におけるエストロゲンのnon-genomic pathwayの機能を同定するため、ERαの non-genomic pathwayを全身で障害した遺伝子改変マウス(KRRKI/KIマウス)を用い、PAHにおけるエストロゲンの作用を評価した。VEGFR阻害薬と低酸素により誘導したPAHに対して、野生型雌マウスにおいてはエストロゲンにより肺動脈の中膜肥厚抑制と右室収縮期圧の低下が認められたが、KRRKI/KIマウスではこれらの作用が消失しており、エストロゲンのPAH抑制効果についてERα non-genomic pathwayが重要な役割を担うことが示唆された。さらにこの血管保護作用について詳細な機序を検証するため、細胞種特異的なERα knockout マウスを用いた実験を行い、内皮細胞特異的にERα をknockoutしたマウスでは、 PAHに対するエストロゲンの保護的効果が減弱することを確認した。以上の結果からエストロゲンの保護的効果について内皮細胞におけるERαの non-genomic pathway が重要な役割を担っていることが示唆されたため、現在ヒト臍帯静脈内皮細胞や単離培養したマウスの肺動脈内皮細胞を用いて、その詳細な機序の解析を進めている。具体的にはPAHの病態との関連から、内皮細胞に内皮間葉転換誘導や低酸素刺激をくわえ、それらの負荷に対する反応においてエストロゲンが及ぼす効果の同定を試みている。また近年では芳香族炭化水素受容体(AHR)がPAHの病態形成にかかわる機序が解明されつつあるが、同受容体はエストロゲンの細胞内シグナル調整にも関与することが知られており、同受容体と関連したPAHにおけるエストロゲンの作用機構の解析も試みている。
2: おおむね順調に進展している
PAHにおけるエストロゲンのnon-genomic pathwayの作用解明に関して、複数系統の遺伝子改変マウスを用いた実験によりその作用機序の絞り込みについては一定の進展が得られている。詳細な分子機構の解明にあたり、細胞を用いた実験系の確立に一定の時間を要したが、徐々に信頼性の高い結果が得られている。
単離培養細胞を用いた実験等により、PAHにおけるエストロゲンのnon-genomic pathwayの保護的効果の分子的機序の解明を進める。またnon-genomic pathwayの選択的刺激によりPAHの発症予防や既に誘導されたPAHの治療が可能であるかについても評価を行い、新規治療法としての有用性を検証する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件)
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