研究課題/領域番号 |
22K16129
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53020:循環器内科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
八木 宏樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (50868453)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | マルファン症候群 / メカニカルストレス / インバースアゴニスト活性 / 一細胞解析 / 三次元培養シート |
研究開始時の研究の概要 |
マルファン症候群(MFS)は、全身の結合組織の異常によって大動脈、骨格、眼、肺などの全身の様々な系統に特徴的な症状をきたす常染色体優性の希少難病疾患である。特に大動脈基部拡大を中心とした洋梨状の拡張病変(瘤)と解離は、若年患者の突然死の原因となる。大動脈瘤に対する降圧・外科治療により、予後は改善したが、心血管障害に対する効果的な治療法は未確立のままであり、革新的治療薬の開発と至適な治療指針の確立は喫緊の課題である。我々はMFSモデルマウスとヒト大動脈組織を用いて、メカニカルストレス応答異常を標的とした革新的治療薬の開発に向けたトランスレーショナルリサーチを立ち上げることとした。
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研究実績の概要 |
マルファン症候群(MFS)モデルマウスやMFSのヒト大動脈組織において、TGF-βシグナルの過剰な活性化が検出されるが、フィブリリン1をコードするFBN1遺伝子変異を原因とする本症の病態発症・進展機序は依然として一元的に説明できていない。近年、本症動脈壁での機械的刺激感受性の異常や細胞外シグナル調節キナーゼ活性化などが報告され、アンジオテンシンII(Ang II)1型(AT1)受容体阻害薬(ARB)ロサルタンがこれらを抑制し、病態進展を防ぐ可能性が示唆された。 しかし、無作為化比較対照試験ではβ遮断薬を上回る効果を得られなかった。本疾患の核心的な問題点は、FBN1遺伝子変異により大動脈瘤が形成される分子病態については依然として不明な点が多く残され、有効な治療法が確立されていないことである。 我々は、MFSの大動脈瘤形成には、大動脈内皮細胞におけるメカニカルストレスの異常応答に伴うキサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)の過剰発現とそれに由来する酸化ストレスが重要であることを見出してきた。しかし依然として、Fbn1 C1041G/+ マウスの大動脈における外膜周囲のマクロファージXORの役割やメカニカルストレスによる血管内皮細胞(vECs)でのXOR発現誘導の上流の機序の詳細は不明である。またFBN1遺伝子変異に始まる大動脈瘤形成が、最終的には大動脈の全層にわたる組織破綻や炎症を惹起する複雑な機能的細胞応答の全容は未解明である。 本疾患は、発症率2-3/10,000人と比較的高く全国で約2万人近くの患者がいるとされ、若年の突然死の原因となる難治性疾患である。本研究の成果次第では、患者のQOLや予後を向上させることが期待でき、厚生労働行政上の意義は大きいと考えられる。今回、MFSの病態解明と創薬を目的とした上記の課題に取り組むことで、上記目的を果たしたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<計画①> MFSの大動脈瘤形成におけるマクロファージXORの役割 MFSの大動脈瘤形成におけるマクロファージXORの役割について検証するため、マクロファージ特異的XdhノックアウトFbn1 C1041G/+マウスを作成した。大動脈径の経時的変化や組織学的評価、細胞内シグナル伝達系などを評価し、実験を完了した。現在、論文を投稿中である。 <計画②> MFSの大動脈瘤形成に対するインバースアゴニスト活性を有するARBの有効性 MFSの大動脈瘤形成に対するインバースアゴニスト活性を有するARBの有効性について検討した。インバースアゴニスト活性のあるARB(カンデサルタン)とインバースアゴニスト活性を有さないカンデサルタン-7HをFbn1 C1041G/+マウスに投与し、大動脈径の経時的変化や病理学的評価、細胞内シグナル伝達系などを評価し、実験を完了した。すでに論文を投稿し、追実験を終えて、再投稿中である。 <計画③> 三次元培養シート、一細胞解析を用いたMFSの大動脈瘤形成における細胞間の共発現ネットワーク解析 三次元培養シート、一細胞解析を用いたMFSの大動脈瘤形成における細胞間の共発現ネットワーク解析を行う。血管組織の主な構成細胞であるvECsと血管平滑筋細胞(vSMCs)を重層培養し、またはFbn1 C1041G/+マウスとMFS患者の大動脈からvECsとvSMCsを単離し、三次元培養シートを作成する。vECsのAT1受容体やXdhの遺伝子発現をノックダウンし、或いは伸展刺激やシアストレスをかけることで、血管壁全層にわたる組織破綻や炎症の機能的細胞応答の仕組みを明らかにする。またFbn1 C1041G/+マウスとMFS患者の大動脈全体から細胞を分離し、一細胞でのトランスクリプトームを取得し、共発現ネットワーク解析を行う。現在、上記実験系を構築中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進に関しては、以下のような方策を考えている。 本年度、実験計画①~②を遂行する上で、または論文投稿に際して追実験に必要な試薬などを購入し、おおむね計画通りに進行した。実験計画①~②に関しては、実験を終了し、現在論文を投稿中ないし追実験を終えて再投稿中である。今後、追実験を予定しているため、定期的なマウスの購入や飼育費用が必須である。またマウスならびにヒト大動脈組織を用いて、病理組織像、免疫染色、ウェスタンブロット、RT-PCRでの解析を行う可能性があり、これらを実施する上でも、試薬や消耗品が必要である。また論文の掲載費なども必要となる可能性が出てくると考えている。 実験計画③に必要な一細胞解析は、東京大学の他の基礎グループですでに手法が確立しており、共同で実験を進める予定である。その上で必要となる試薬などを購入する予定である。本研究を遂行する上で必要な機材・設備は揃っているので、そのような高額な機器の購入は現時点では考えていない。また三次元培養シートの作成に必要な知識や手法は他施設に赴き、現在技術の習練中である。三次元培養シートの構築を行うためのin vitroの実験も予定しており、培地やディッシュといった消耗品が必要となってくる。 これらの実験計画の元で得られた研究結果を、公開シンポジウムや機関ホームページ、患者会活動、国内外の学会などを通じて公表・情報提供を行いたいと考えている。国内外への定期的な学会への参加に際し、旅費などの経費が生じると思われる。
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