研究課題
若手研究
近年の遺伝子解析技術の進歩により、従来、小児期に末期腎不全に至ると考えられていたネフロン癆などの遺伝性腎疾患が成人の慢性腎臓病患者においても多く潜在していることが指摘されている。しかし、本邦において成人の末期腎不全患者を対象とした疫学データはなく、成人慢性腎臓病患者でネフロン癆を疑うべき臨床像も分かっていない。さらにネフロン癆の発症機序も未だ不明である。研究代表者らは次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝性腎疾患診断パネルシステムを立ち上げ、日本全国からの患者検体を集積している。本研究は、ネフロン癆の新規病態解明、さらには新規治療法開発につなげることを目的としている。
本研究は、1.次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子解析手法を用いて、本邦の成人の末期腎不全患者において、ネフロン癆を含めた遺伝性腎疾患が潜在する割合を明確にすること。2.成人慢性腎臓病患者に潜在するネフロン癆患者を正しく診断するために、遺伝学的にネフロン癆と判明した患者にはどのような臨床的特徴があるのかを明らかにすること。3.NPHP1遺伝子が完全欠損したiPS細胞とモデルマウスの解析から病態生理を明らかにし、遺伝学的にネフロン癆と診断された患者の遺伝情報と腎生検サンプルで検証することを目的としている。1.および2.成人末期腎不全患者の遺伝学的背景を明らかにするために、のべ1100名以上が通院する複数の透析病院と共同研究を立ち上げた。慢性腎臓病の原疾患が明らかでない93名の成人患者から説明同意を得て血液検体の採取を行い、慢性腎臓病に関わる212の遺伝子について次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子解析を実施した。93名中14名(15%)が遺伝性腎疾患であることが判明した。多発性嚢胞腎を除いた7名は臨床診断が遺伝学的診断と異なっていた。遺伝学的にネフロン癆と診断した患者は、臨床診断は慢性糸球体腎炎であった。本研究結果は、成人の慢性腎臓病患者においても、臨床的に遺伝性腎疾患と診断されていなくとも遺伝性腎疾患が潜在していることが判明した。Fabry病やAlport症候群など、早期の治療介入により慢性腎臓病の進行を防ぐことのできる疾患も潜在しており、遺伝子解析の重要性が示された。本研究結果は2022年に開催された米国腎臓学会にて発表された。3.遺伝子改変マウスとiPS細胞のネフロン癆モデル作成に成功した。
2: おおむね順調に進展している
1.および2.本邦の成人の末期腎不全患者における遺伝性腎疾患が潜在する割合を明らかにできているため。また、遺伝学的にネフロン癆と診断された患者もおり、その臨床的特徴の評価を行っているため。3.遺伝子改変マウスとiPS細胞のネフロン癆モデル作成に成功し、遺伝子改変マウスの組織学的特徴を探索しているため。
1.および2.成人の慢性腎臓病患者に潜在するネフロン癆も含めた遺伝性腎疾患の臨床的特徴を調査し、早期診断および早期治療のために、どのような患者に遺伝子解析を行うべきかを明らかにする。3.遺伝子改変マウスとiPS細胞のネフロン癆モデルを用いて、ネフロン癆の新規病態の解明を行う。
すべて 2022
すべて 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)