研究課題/領域番号 |
22K16304
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分54010:血液および腫瘍内科学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
白 潔 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特定事業研究員 (60775336)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 造血幹細胞 / がん幹細胞 / クロマチン / 炎症性サイトカイン / Hmga1 / Hmga2 / エピゲノム / 白血病 / MDS |
研究開始時の研究の概要 |
組織幹細胞は、個体発生や成体組織恒常性を維持するために自己複製能と多分化能を持ち、様々なストレスによって生じる組織の障害を修復する不可欠な細胞である。しかし、個体や血液細胞がストレスを受けた後、造血幹細胞がどのようにその自己複製と分化を決定し、造血を修復するのかは未だ明白ではない。本研究では、ES細胞だけでなく造血幹細胞でも高発現しており、クロマチン構造と転写因子のDNA結合を制御できる非ヒストン核内タンパクのHMGA1に着目した。新たに作製したHmga1ノックアウトマウスを活用し、幹細胞の自己複製と造血の維持に不可欠なHMGA1によるクロマチンと転写因子ネットワーク制御の分子基盤を解析する。
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研究実績の概要 |
組織幹細胞は、個体発生や成体組織恒常性を維持するために自己複製能と多分化能を持ち、様々なストレスによって生じる組織の障害を修復する不可欠な細胞である。炎症ストレス、DNAダメージやテロメア短縮といった複製ストレスが高齢者にみられる造血不全や白血病発症を促進するとされる。しかし、血液細胞がストレスを受けた後、造血幹細胞がどのように自己複製と分化を決定し、造血を修復するかは未だ明白ではない。本研究では、申請者の見出した核内タンパクHMGA1 (High-mobility group AT-hook 1)による幹細胞の自己複製制御を手掛かりに、クロマチン構造・転写因子制御による幹細胞制御機構の解明を目指す。 これまでに、本研究で新たに作成したHmga1 KOマウスの造血表現型解析を実施した。Hmga1 KO骨髄細胞を用いた競合的骨髄移植では、Hmga1 KO幹細胞のキメリズムが有意に低下し、連続移植にてさらに顕著になった。また、Hmga1 KO幹細胞は有意に休止期G0が少なく、細胞周期が亢進した。これらの結果から、Hmga1は造血幹細胞のストレス応答に不可欠であり、幹細胞の休止期G0の維持に重要であることを見出した。加えて、Hmga1 KOマウスの造血幹細胞の遺伝子発現解析、クロマチン構造解析を実施した。Hmga1は幹細胞分画に特異的に細胞周期関連遺伝子を抑制し、Nf-kb標的遺伝子を活性化することを確認した。オミックスデータの統合的な解析から、クロマチン高次構造の構築と維持に重要なCTCF転写因子とHmga1が機能的に協調することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、年齢依存的なHmga1 KOマウスにおける造血表現型解析を実施した。Hmga1 KOマウスは乳幼児期に軽度の低体重があるが、成体期には消失し、明らかな造血器腫瘍発症を認めなかった。Hmga1による造血表現型および幹細胞機能を詳細に検証するために、Hmga1 KOマウスの骨髄細胞の競合的骨髄移植を実施した。Hmga1 KO幹細胞のキメリズムが有意に低下し、連続移植実験によってさらに顕著になった。Hmga1は造血には不可欠ではないが、炎症ストレスや複製ストレスに対する対抗性に重要であることが分かった。また、Hmga1 KO幹細胞は有意に休止期G0が少なく、細胞周期が亢進し、いわゆる疲弊によって造血幹細胞が消失した。Hmga1は幹細胞の休止期G0の維持に重要であることが示唆された。 Hmga1による造血幹細胞の制御機構を理解するために、ファミリー遺伝子であるHmga2の造血機能と比較検証した。Hmga1 KOマウスとHmga2 KOマウス造血幹細胞のRNA-Seqデータと比較すると、Hmga1とHmga2が重複して制御する標的遺伝子が少なく、Hmga1特異的な転写制御が示された。また、Hmga1は幹細胞分画に特異的にE2F標的、ポリコーム複合体PRC2を負に調節しており、NF-kB標的遺伝子を正に調整し、幹細胞の休止期G0維持に重要であることに合致していた。さらに、Hmga1の直接的な制御であるかを理解するために、定常状態におけるHmga1の標的領域をChIP-Seqによって同定した。加えて、Hmga1によるクロマチン構造制御を理解するために、Hmga1 KOマウスの幹細胞とGMP前駆細胞のATAC-Seqを実施した。オミックスデータを用いた統合的な解析から、クロマチン高次構造の構築と維持に重要なCTCF転写因子とHmga1が機能的に協調することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、年齢依存的造血表現型解析に加え、Hmga1 KOマウス造血幹細胞の限界希釈移植実験により、Hmga1による造血表現系および幹細胞機能解析を詳細に検証する。正常造血に加えて、白血病マウスモデルやヒト細胞株を用いることで、白血病幹細胞におけるHmga1の必要性を検証する。また、ストレス条件下で不可欠なHmga1によるクロマチン構造制御とCTCFを含めた転写の分子メカニズムを検証するために、Hmga1とCTCFが結合するクロマチン領域をCRISPR/Cas9/dCas9で欠損させるか、機能的に抑制した後に、遺伝子発現変動や幹細胞機能を解析する。さらに、HmgaファミリータンパクのC末端のリン酸化は、そのDNA結合能を亢進することが報告されているため、幹細胞におけるHmga1機能を制御する上流のシグナルや代謝の変動を詳細に検証し、Hmga1タンパクの翻訳後修飾を介したクロマチン制御の機序を解析する。最後に、リン酸化特異的なHmga1機能を生体モデルで解析するとともに、ストレスシグナルを調整することで、正常幹細胞の維持やがん幹細胞の消失を目指した化学的・遺伝学的解析を実施する。
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