研究課題/領域番号 |
22K16485
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
村上 智洋 浜松医科大学, 医学部附属病院, 診療助教 (60897510)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 消化器癌 / 癌免疫微小環境 / 化学療法抵抗性 / 食道癌 / 癌と炎症 / PD-L1 / 免疫 / 免疫チェックポイント阻害剤 / Cold Tumor / Hot tumor / Fn14 / 悪液質 / 胃癌 |
研究開始時の研究の概要 |
進行再発消化器癌の治療において腫瘍免疫を最大限に引き出すことが重要となってきているが多くの腫瘍が免疫学的に非炎症性(cold tumor )であることが治療抵抗性の一因として考えられている. Cold tumorの病態を明らかにするためにPD-1/PD-L1経路に加え, 他の免疫細胞や間質細胞も加えた腫瘍微小環境全体を免疫組織学的に評価し, 予後不良症例の免疫プロフィールを決定する. 切除検体から抽出した核酸の網羅的解析を行うことでcold tumorの背景にある分子生物学的特徴を明らかにしていく.
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研究実績の概要 |
研究の目的:消化器癌において非炎症性(cold tumor)であることが化学療法などの治療抵抗性の一因とされ、cold tumorの克服は重要な課題である。本研究は、cold tumorを形成する分子学的特徴を解明し、新規治療法の開発を目指している。 研究方法:免疫組織学的染色を用い、消化器癌組織のPD-L1および免疫細胞の分布を分析し、cold tumorの分子学的特徴を明らかにした。 当該年度の研究成果: 本施設で切除された194例の食道癌検体のPD-L1を染色し、tumorおよびstromaの発現強度をH-scoreで評価した。H-scoreの中央値を比較した結果、tumorのH-scoreはstromaよりも有意に高かった。H-scoreを四分位に分けたとき、PD-L1の高いグループほど術後生存期間が良好であった。H-scoreを最適なカットオフ値で区切るとtumorとstroma両方で高いH-scoreは、著明に予後が良好であった。Cox回帰分析により、tumorのPD-L1高値が独立した予後良好因子であることが示されたが、stromaでは有意ではなかった。臨床病理学的因子とPD-L1の高低の解析ではstromaのPD-L1が深達度、リンパ節転移、脈管侵襲と有意に相関する一方で、tumorのPD-L1にはそのような傾向は見られなかった。再発した85例のうち、70例が殺細胞性化学療法を受け、その中で化学療法を8ヶ月以上継続した群では、stromaのH-scoreが有意に高かったがtumorではこの傾向が認められなかった。再発した24例において免疫チェックポイント阻害剤が使用されたが治療継続期間とH-scoreに有意な相関を認めなかった。 結論:本研究の結果は、PD-L1の発現がtumorとstromaで異なる臨床病理学的意義を持つことを示し、個別化医療への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、消化器癌において腫瘍免疫活性が低いcold tumorの病態を解明し、新規治療標的分子を発見することを目指している。2012年から2020年の間に当科で切除された194症例の食道扁平上皮癌を対象に、免疫組織学的染色を用いて解析を行った。染色された切片はデジタル画像として保存され、染色強度はH-scoreで定量化した。2023年6月の時点で、全症例の予後追跡調査が完了し、観察期間の中央値は60ヶ月であった。食道扁平上皮癌において免疫チェックポイント阻害剤の適応を決定する際に日常臨床で評価されているCombined positive scoreはtumorとimmune cellを合わせて評価するが、tumorやstromaの染色強度及びそれぞれの分画の臨床病理学的意義は明らかではない。これを研究動機として、tumorとstromaのPD-L1を別々に定量解析し、異なる臨床病理学的意義が見つかるのではないかという仮説を立て、解析を進めた。その結果、tumorのPD-L1の高発現が生存において独立した術後生存期間に関する予後因子となるのに対し、stromaのPD-L1の高発現は腫瘍の進展と逆相関することが明らかになった。さらに、再発症例における殺細胞性化学療法および免疫チェックポイント阻害剤施行症例のPD-L1を解析することで、食道扁平上皮癌においてこれまで注目されていなかったstromaのPD-L1の高発現が殺細胞性化学療法の治療効果向上に寄与する新たな知見が得られた。本研究により、現在の腫瘍免疫微小環境において重要な分子であるPD-L1がtumorとstromaで異なる機能を持つことが示され、今後の癌免疫微小環境の解明が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、これまで食道扁平上皮癌のPD-L1を解析してきた。免疫原性が高い炎症性の「Hot」な腫瘍免疫微小環境(TIME)は一般的に治療効果を向上させることが報告されているが、全身性炎症や慢性炎症は生命予後を悪化させる報告も多い。今後はマクロファージ、骨髄由来抑制細胞、癌関連線維芽細胞、そして細胞外マトリックスなどのTIMEの構成要素を検索する。さらに食道扁平上皮癌は全身性炎症から癌悪液質を引き起こしやすいため、癌悪液質の発生に関与するFn14に注目している。Fn14はTNF receptor superfamilyに属する炎症性サイトカインである。我々の予備データでは、Fn14の高値の症例で術後生存期間が良好であるが、再発後の生存期間は逆に予後が不良であることを明らかにしている。一方で、Fn14の高値はPD-L1と有意に相関していることを発見した。以上の結果より、PD-L1は「至適な炎症状態」を反映する一方、Fn14は悪液質に関わる「過度な炎症」を反映するのではないかという仮説を立てている。免疫組織学的染色で予後不良プロフィールを検索した後に、網羅的遺伝子解析により分子生物学的特徴を解明することを検討している。特徴的な数例のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織標本を使用し、NanoStringなどの空間的トランスクリプトーム解析を行う予定である。代替案として、組織標本の腫瘍部や間質部をMicrodissectionしてRNAを抽出し、RNAシーケンスを行うことも可能である。網羅的解析では免疫腫瘍学や炎症に関わる遺伝子パネルを用いて研究領域を絞り、効率的な新規ターゲットの選定を行う。以上の研究計画を通じて、消化器癌における「至適な炎症状態」のプロフィールを同定し、癌免疫治療戦略の向上に貢献する新たな知見を得ることを目指す。
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