研究課題/領域番号 |
22K16675
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56010:脳神経外科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田代 亮介 東北大学, 医学系研究科, 非常勤講師 (40907713)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ミトコンドリア / 脳血管障害 / 脳損傷 / 神経保護 / 神経再生 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、損傷細胞に機能的な「ミトコンドリアを転移」させることで、虚血性脳損傷の軽減・神経機能の回復が得られることが近年報告された。本研究では、健常で機能的なミトコンドリアを損傷細胞に転移させる「ミトコンドリア転移」による新たな神経保護・神経再生戦略を構築することを目標とする。「ミトコンドリア転移」により、虚血性脳血管障害の治療成績向上に寄与することができれば、医療費の削減・介護負担の軽減等、社会的な波及効果。加えてミトコンドリア機能障害が病態の中心を担う神経変性疾患や認知症、外傷性脳損傷等あらゆる神経疾患への水平展開の可能性が期待される。
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研究実績の概要 |
本研究計画では、ミトコンドリア転移を用いて、脳血管障害後の脳損傷軽減および機能回復に寄与する治療戦略を構築することを目指した。今年度は、健常で機能的なミトコンドリアを分泌するアストロサイトの条件検討や、脳血管障害モデルマウスを用いて、ミトコンドリア転移による脳損傷軽減メカニズムの検討を行う計画であった。まず、健常で機能的なミトコンドリアを分泌するアストロサイトの条件検討を行い、若年マウスのアストロサイトが老齢マウスのアストロサイトよりも、より機能的で健常なアストロサイトを分泌することが明らかとなった。また、ミトコンドリア転移により、脳血管障害による脳損傷後の脳損傷の軽減が得られるかを検討するため、脳出血モデルマウスを用いて検討を行った。若年マウスアストロサイト由来の健常で機能的なミトコンドリアを脳出血モデルマウスに静脈内投与することで、脳内血腫周囲の酸化ストレス応答を増強すし、変性した血腫成分による神経細胞の活性酸素種の産生を抑制し神経細胞死を減少させることで、機能回復に寄与することが明らかとなった。上記の通り、本年度は、本研究計画で当初予定していた研究を概ね予定通り進めることができた。2023年度以降は、健常で機能的なミトコンドリアを分泌する細胞の条件検討を進めると同時に、ミトコンドリア転移による脳血管障害後の脳損傷を軽減するメカニズムの解明を進めることで、ミトコンドリア転移による脳血管障害後の脳損傷の軽減を最大化する方法の検討を進め、本治療戦略の臨床応用を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、本研究計画では、健常で機能的なミトコンドリアを産生する細胞条件を明らかにすることを一つ目の重点課題とした。脳内では、アストロサイトが最も多くミトコンドリアを含有するとされている。アストロサイトが細胞外にミトコンドリアを分泌しており、細胞外に分泌したミトコンドリアが機能的であることを確認した。また、健常で機能的なミトコンドリアを安定的に産生するアストロサイトを明らかにするために、若年マウスのアストロサイトと老齢マウスのアストロサイトのそれぞれが細胞外に分泌するミトコンドリアを解析したところ、老齢マウスのアストロサイト由来のミトコンドリアは電子伝達系構成因子の遺伝子発現が低下し、酸素消費も低下していることが明らかとなった。 さらに、2022年度は、ミトコンドリア転移による神経保護効果に関して、in vitroの脳出血モデルとin vivoの脳血管障害モデルマウスを用いた検討を行った。脳内出血では、活性酸素種の過剰産生をきたし、酸化ストレス応答酵素の発現低下をきたすことが知られているが、健常で機能的なミトコンドリア前投与したニューロンは、赤血球溶解液に曝露された後も、活性酸素種の過剰産生が抑制され、酸化ストレス応答酵素の発現を亢進させることで、細胞死を減少させることが明らかとなった。また、in vivoの脳出血モデルマウスに、アストロサイト由来の健常で機能的なミトコンドリアを静脈内投与したところ、機能回復が促進されることが明らかとなった。2023年度は、加齢マウス由来のアストロサイトにおけるミトコンドリア機能異常を見出した。健常で機能的なミトコンドリアを老齢マウスに静脈内投与することで、海馬における加齢因子CCL11の発現が低下し、加齢に伴う認知機能改善に寄与する可能性が示唆された。本研究成果も論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、アストロサイトが細胞外に分泌したミトコンドリアが健常で機能的であることを示したが、どの細胞由来のミトコンドリアを投与すると最も高い治療効果が得られるか不明である。また、細胞内に含有しているミトコンドリアと細胞外に分泌されたミトコンドリアのいずれが、より健常で機能的であるかは不明である。ミトコンドリア形態、膜電位、ATP産生等の評価を行うことで、細胞内から抽出したミトコンドリアと細胞外に分泌したミトコンドリアのいずれが、健常で、より機能的であるかを検討し、より神経保護効果の高いミトコンドリア分画の抽出を目指す予定である。 また、健常で機能的なミトコンドリアは、酸化ストレスの軽減、細胞死の軽減のみならず、脳浮腫、血管透過性、急性・慢性の免疫応答、神経再生等脳血管障害後の脳損傷および神経機能再建において広範な役割を果たす可能性が想定されるが、その詳細は不明である。最終年度である2024年度では一過性中大脳動脈閉塞モデルマウスや脳出血モデルマウスを用いて、ミトコンドリア転移による脳血管障害後の脳損傷の軽減および神経機能回復におけるミトコンドリア転移のメカニズムを明らかにすることで、臨床応用可能な治療戦略の構築を目指すことを目標とする。
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