研究課題/領域番号 |
22K16709
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中川 裕介 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座准教授 (60822666)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 前十字靭帯再建術 / 膝蓋下脂肪体線維化 / ヒアルロン酸シート / 疼痛 / 炎症性サイトカイン / 炎症 / ヒアルロン酸 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は前十字靭帯再建術後などの膝関節手術後の膝蓋下脂肪体(IFP)線維化という問題に着目し、我々はヒアルロン酸(HA)シートの関節鏡視下のIFPへの移植治療が線維化の治療に有用ではないかという仮説をたてた。その仮説を検証する第1段階として我々の教室で確立したラットモノヨード酢酸(MIA)関節内注射による関節炎によるIFP線維化モデルで検討を行うこととした。
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研究実績の概要 |
膝蓋下脂肪体(IFP)の線維化は、膝関節手術後や変形性膝関節症発症中に起こり、持続的な疼痛と可動域制限を引き起こす。本研究ではラット膝関節を用いたモノヨード酢酸(MIA)関節内投与による関節炎モデルにおけるIFP線維化に対するヒアルロン酸(HA)シート移植治療の効果を目的とした。10週令のWistar rat90匹を使用した。両膝関節にMIAを関節内注射後4日目に左膝に膝蓋下脂肪背面にHAシートを移植(HAシート群)。右膝には移植しないsham手術(Sham群)を行った。評価方法は疼痛解析としてIncapacitance test、組織解析はHE染色、 Masson-Trichrome染色でIFPの線維化の程度をIFP線維化スコア及び、線維化の面積をImage Jで計測し、評価した。Safranin-O染でOARSI gradeを用いて関節軟骨変性を評価した。CGRP免疫染色でIFP内のCGRP陽性細胞数を計測した。肉眼的に関節軟骨の変性部位の評価を行った。ELISAで関節液中のHAと IL-1β濃度を経時的に測定した。結果は短期間(2週時点)、長期間(4週時点)ともHAシート群はSham群に比べIFP線維化を抑制した。短期間、長期間ともHAシート移植群はCGRP陽性の神経終末の数が少なかった。短期間ではHAシート群は関節軟骨の変性(破壊)が抑制されていたが、長期間では両群とも同程度に関節軟骨が破壊されていた。HAシート移植後の3日目以降から移植側の関節液中のHA濃度が多くなり、7日、10日にピークになった。組織学的にHAシートは膝関節内でIFPの後面に10日間までは残存していた。HAシート移植後の7日目ではHAシート群でsham群に比べ関節液中のIL1-βの値は下がっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の結果は、ラット関節炎モデルにおいて、HAシートの移植がIFPの線維化と関節軟骨変性を抑制することができたことである。さらにHAシートは移植後10日までIFPの後方の移植部に留まり、関節液中のHA濃度を10日間上昇させた。HAシート移植がIFPの線維化とCGRP陽性神経線維終末の浸潤を減弱させることを示した。過去の研究で、IFPの線維化とCGRP陽性神経線維終末の浸潤が痛みと密接に関係していることが示されている。HAシートは、IFPの線維化とCGRP陽性神経線維終末の浸潤を抑制することにより、疼痛を和らげた可能性がある。10日間の間HAシートが溶解するにつれてHAが関節内に放出され高濃度に維持されたことが疼痛を減弱した原因と考えられる。HAシートはIFP線維化を抑制し、疼痛を軽減される可能性を示した。膝関節炎に続発するIFPの線維化と軟骨の変性が、HAシート投与により短期的に抑制され、関節痛も改善する効果を認めた。またHAシート投与により膝関節内で高いHA濃度が維持され、炎症性サイトカインIL-1βが抑制されることが明らかとなった。HAシートは関節鏡視下に移植可能であり、将来の臨床応用も期待できる。より大型動物での検討を行った後、臨床応用も検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに行っている研究の限界点としては、関節液中の炎症性サイトカインとしてIL-1βのみ測定し、TNF-αやIL-6などIFP線維化の発症に関与すると過去に報告されている他のサイトカインは測定しなかったので、今後他の線維化発症にかかわるであろうサイトカインも測定する予定である。変形性膝関節症は女性により頻繁に発生し、この研究では雄のラットのみを使用している。性別差が結果に与える影響については評価していない。今後雌ラットを使用した検討を行いたい。今回の実験はMIA注射後の4週間の短期結果のみを評価したが、HAシートのIFP線維化、関節軟骨変性に対する影響についてより長期の結果を解析する必要がある。今後3ヶ月の長期の解析を予定している。
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