研究課題/領域番号 |
22K16729
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大西 貴士 北海道大学, 医学研究院, 特任助教 (90805384)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 椎間板 / 再生医療 / exosome / micro RNA / 骨髄由来間葉系幹細胞 / 線維輪細胞 / 髄核細胞 / Exosome / 低侵襲治療 / drug delivery system / 細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
椎間板は脊柱に備わる支持性、可動性に不可欠な組織である一方、その組織変性は、腰痛や神経障害、脊柱変形の原因となる。現在の治療は、鎮痛薬の使用や手術療法があるが、病態に即した根本的な治療法はない。新たな治療法の開発のために基礎研究が行われているが、実用化に至るまでには大きな障壁がある。その一つとして、椎間板への有望な薬剤伝達システムの欠如がある。現状、椎間板内部への薬剤投与は直接注射が想定されることが多いが、体の負担が大きく実用化の妨げとなっている。よって、本研究の目的は血管内投与により椎間板へ薬剤伝達が可能な新しいシステムの構築、体に負担の少ない治療法の開発を目指すことである。
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研究実績の概要 |
研究背景:各細胞種より得られるexosomeに内包されるmicro RNA (miRNA)やタンパク質の発現パターンは、細胞種により異なるという先行研究の結果があり、その内容物も無視できないと考えた。よって椎間板再生医療研究で用いられる骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)と、椎間板細胞のexosome内包miRNAとタンパク質を網羅的に比較解析することで、組織再生に有効なターゲットを同定し、新しい治療薬の開発も目指すこととした。 研究成果:exoRNeasy Maxi kitを用いて、AFCのCMよりexosomeを単離し、透過型電子顕微鏡で確認したところ、径 50-100 nmの小胞を多数捉えることができた。よって、本キットを用いてexosomeを単離できたと判断した。次に使用キットメーカーのプロトコールに従い、exosomeをlysis bufferで処理して、long RNAを除去し、short RNAのみ単離することを試みた。得られたmiRNAサンプルをIllumina NovaSeq 6000を用いて、シーケンスしたところ、線維輪細胞(AFC)群220個、髄核細胞(NPC)群229個、BMSC群222個のmiRNAがシーケンスされた。AFC群 vs BMSC群では7個の上方制御されたdifferentially expressed miRNA (DEM), 4個の下方制御されたDEMが、またNPC群 vs BMSC群では1個の上方制御されたDEM, 5個の下方制御されたDEMが得られた。miRBase Databaseによりターゲット予測された遺伝子群に基づいた事象解析では、AFC群 vs BMSC群とNPC群 vs BMSC群において共に、BMSCの椎間板移植の有効性として矛盾のない事象がリストアップされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたdrug delivery system (DDS)の確立は、ラットの尾静脈注射手技のlearning curveがあり、時間を要した。またexosome単離に用いたバッファー(Buffer XE, QIAGEN)を、動物に使用可能なバッファー(具体的にはリン酸緩衝液)に限外ろ過(Vivaspin 2 CTA 20000 MWCO, Sartorius)により置換後にBCA assay(BCA assay kit, TaKaRa Bio)を行ったところ、タンパク量が検出範囲以下であった。タンパク量を基準に静注するexosomeサンプルを調整する予定であったため、pitfallが生じていないか確認する必要性が生じた。対処方法としてはバッファー置換後に電子顕微鏡によりexosomeが失われていないかの確認、もしくはexosome単離に用いたBuffer XEを用いてそのまま動物に使用する方法を検討する。本バッファーはin vitroにおいては、細胞の生存率や増殖性に影響を与えないことが分かっているが、in vivoで用いる場合は本バッファー単独のコントロール群を置くことが推奨されている。一方、単離したexosomeを蛍光標識するDiR(in vitrogen)を用いたin vivo imagingの機器の試運転は、問題なく施行できており、exosomeサンプルを確実に準備することでDDSの確立の成否が確認可能な段階にきている。本研究の申請当初、申請者自身の過去の研究を元に針穿刺によるラット椎間板変性モデルに対して、アポトーシス抑制剤やcaspase-3 siRNAを内包させたexosome静脈注射による治療実験を行うことを検討していた。しかし、いくつかの問題点の解決策が分かるまでの間、先行して前述のような新治療薬の開発につながる実験を進めるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
上記を踏まえて、サンプル数を増やす必要はあるものの、椎間板細胞に対してBMSC特有のexosome miRNAが同定された今、in vitroでmiRNA setに抗アポトーシス効果、抗炎症効果、細胞外基質産生増強効果が確認できれば、それらをexosomeに内包させて経静脈投与するin vivo実験を考えている。用いる動物種としては、まずラットを検証する。本治療法の有効性が確認できた場合、臨床応用に向けてはヒツジといった大動物での実験が必要になることを見込んでいる。現時点までの実験結果から、NPCに比べてAFCのexosomeの方が多量の収量が得られることが分かっている。細胞培養時の増殖能がAFCの方が高いため、exocytosis自体も活発であることが想定される。椎間板組織の血流は健常組織の場合、線維輪の外側1/3程度に限局している。変性と共に血管進入が起こるとはされているが、髄核は血行化しづらく椎体軟骨終板を介した物理的拡散による栄養や酸素の供給形態となっている。Exosomeのサイズは、細胞の数百分の一から千分の一程度であり、髄核への物理的拡散ルートにも乗る可能性は考えられるが、AFC exosome経静脈投与の方がDDSとしては有望な可能性がある。 椎間板細胞exosomeを用いたDDSの確立と治療法の確立が、本研究の目的であったが、実験過程で想起されたのはBMSC exosomeの経静脈投与に有効性がある可能性である。iPS細胞のように腫瘍形成といった事象がBMSCでは報告されておらず、有害事象がない可能性がある。その場合、軟骨・骨組織へ抗アポトーシス効果、抗炎症効果、細胞外基質産生増強効果を期待できる治療法として成立する可能性があり、併せて検証したいと考えている。 また臨床応用に向けては、BMSC cell bankの活用が成功の鍵だと考えている。
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