研究課題/領域番号 |
22K16774
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
百枝 雅裕 順天堂大学, 医学部, 助教 (10938971)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 変形性膝関節症 / ヒアルロン酸 / HYBID / 滑膜炎 / 骨棘 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒアルロン酸分解酵素Hyaluronan-binding protein involved in hyaluronan depolymerization(HYBID)ノックアウトマウスで酵素誘導性膝変形性関節症(膝OA)モデルを作製し、滑膜炎発症、骨棘形成、半月板逸脱、関節軟骨破壊に対するHYBIDの役割を解析するとともに、野生型マウスモデルにHYBID阻害剤を投与し、抑制効果を解析する。
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研究実績の概要 |
変形性膝関節症(膝OA)の発症・進展リスク因子として、滑膜炎や骨棘誘導性半月板逸脱などが注目されている。研究代表者はヒアルロン酸分解酵素であるHYBID(Hyaluronan-binding protein involved in hyaluronan depolymerization)ノックアウト(KO)マウスと野生型マウスに内側半月板と内側側副靭帯切除による膝OAモデルを作製し、HYBID KOマウスではヒアルロン酸分解低下により関節軟骨破壊と骨棘形成が抑制されることを報告してきた。本年度は、骨棘形成や滑膜炎についてさらに検討し、骨棘形成に関して一定の成果を収めた。膝OA患者由来骨棘細胞と関節軟骨細胞の特性を維持する3次元スフェロイド培養系を確立し、炎症性サイトカインIL-6の作用で骨棘形成が特異的に抑制されることを明らかにした。また、高齢者コホートの解析で、脛骨内側部に形成された骨棘が半月板内側逸脱に関わることを示すとともに、同コホートにおいて脛骨前方で形成された骨棘が半月板前方逸脱に関与することを報告した。これら一連の研究は、骨棘誘導性半月板逸脱を介した膝OAの発症・進展経路の一部を明らかにした点で意義があると考えている。一方、滑膜炎に関しては、生理食塩水で溶解した細菌性コラゲナーゼをHYBID KOマウスと野生型マウスの膝関節内へ2回注射し、初回注射1、2、4週後の時点で屠殺し、膝関節をマイクロCTによる画像解析と病理組織学的に検討した。その結果、注射後1週で強い滑膜炎が惹起され、2週、4週の時点では関節軟骨OA変化に加えて、大腿骨と脛骨の関節面辺縁部や靭帯付着部に著明な骨棘形成を認めた。しかし、これらの滑膜炎や骨棘形成は高度であり、HYBID KOマウス群では野生型マウス群に比較して抑制傾向はみられたが、最終的に両群間で有意差は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膝OAの重要な発症・進展リスク因子である骨棘形成に関する研究で進展を認めた。本研究では、1,000名以上の高齢者からなるコホートにおいて、独自に開発した偽カラー化MRI画像診断法を用いて骨棘誘導性半月板逸脱仮説を裏付けるデータを獲得し、膝OA発症・進展における骨棘の重要性が確認された。また、今回明らかとなったIL-6による骨棘形成抑制効果は、IL-6が強力なHYBID発現促進作用を有することから、本サイトカインによる骨棘形成抑制作用の一部はHYBIDによるヒアルロン酸分解亢進に基づいていることも推定され、今後の研究課題と考えている。細菌性コラゲナーゼ誘導性膝OAモデル実験では、生理食塩水で溶解したコラゲナーゼをHYBID KOマウスと野生型マウスの左膝関節内へ2回注射(初回注射2日後に2回目を注射)し、初回注射から1、2、4週後にマウスを屠殺して両膝関節を採取して、滑膜炎、関節軟骨OA変化、骨棘、半月板逸脱の各項目におけるHYBIDの役割をマイクロCTおよび組織学的に解析した。その結果、本研究モデルでは滑膜炎、関節破壊、骨棘形成などが両群マウスで有意な差を示さないことが判明した。本データは、おそらく細菌性コラゲナーゼの作用が強力過ぎたためと推定された。以上のように、HYBIDの細菌性コラゲナーゼ誘導性膝OAマウスモデルでは、当初予想した通りのデータは得られなかったが、骨棘に関して有用な研究成果を得ることができ、本研究の全体的な進捗状況はほぼ順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
骨棘誘導性半月板逸脱仮説を裏付けるデータが得られたことから、膝OA発症・進展に骨棘の重要性が増したと考えている。骨棘形成調節因子に関してはほとんど知られていないのが現状であり、本年度の我々の論文でIL-6が骨棘形成を抑制する因子であることが初めて示された。そこで、HYBID KOマウスと野生型マウスの脛骨内側部関節軟骨―滑膜移行部の骨膜に骨棘誘導物質(TGF-βとBMP-2の混合剤)を局所注射して骨棘を誘導し、HYBID KOマウスでの骨棘形成抑制と骨棘による半月板逸脱抑制を検証するとともにIL-6の発現レベルを検討する予定である。本剤を注射後マイクロCTによる画像解析とパラフィン切片での組織学的解析は、ORSI scoring system(Osteoarthritis Cartilage 18:S17-S23, 2010)、Lewisらの方法(Osteoarthritis Cartilage 19:864-873, 2011)、Kanekoらの方法(Matrix Biol 32:178-187, 2013)で行う。また、骨棘形成促進因子に関してはほとんど情報がないことから、マウス膝OAモデルの骨棘と関節軟骨組織をマイクロダイセクションして両組織で発現する分子をプロテオミクス解析して、骨棘で発現亢進する骨棘形成促進因子探索実験を既に開始している。現在、候補分子を同定した段階であり、今後その作用機構を検討して論文化する予定である。また、靭帯付着部骨棘形成モデルでのHYBIDの役割解析実験を計画している。細菌性コラゲナーゼをアキレス腱周囲のKager’s fat pad周囲に1回注射して、比較的軽度の炎症モデルで検討予定である。
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