研究実績の概要 |
胎児発育不全(FGR)では,胎盤虚血が原因の大半を占め,早産や周産期死亡を増やすだけでなく,神経発達症のハイリスクとなる.現行医療では循環不全や脳発育停滞が顕在化する前に早産で出生させ,胎外治療を行うしかないが,血管拡張作用を有するホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬のタダラフィルが,FGRに対する発育促進,妊娠週数の延長の効果を示唆し,修正月齢18で乳児の成長,発達は良好であることを示した.本研究の目的は,タダラフィルが脳構造の発達変容や神経学的予後を改善するメカニズムを明らかにすることである.子宮動脈血流や胎盤酸素化能をMR画像で解析する臨床研究を既に開始しており,本研究はこの研究に追加する形式で行うこととした.解析項目は,タダラフィル内服前と内服後1週間の平均動脈圧,心拍出量,子宮動脈血流量と血管抵抗指標,胎児推定体重(超音波ドップラー法),血中Hb濃度,SpO2,子宮への酸素供給量,MRでは,子宮動脈,胎盤,胎児脳画像,修正月齢0の新生児脳画像から部位別容積(前,頭頂,側頭,後頭葉の灰白質,subplate層,白質,基底核),白質の部位別拡散指標値を算出する.修正月齢18,36の神経発達指標も診療録から抽出する.まず,子宮動脈血流量評価法確立のため,FGR妊婦と正常妊婦に対して,2D-phase contrast法を用いて評価した.FGR妊婦では,タダラフィル投与前と投与後1週間で評価した. 2D-phase contrast法による子宮動脈血流量評価の精度は高く,FGR妊婦は,正常妊婦より子宮動脈血流量は少なかった.タダラフィルを投与することで,子宮動脈血流量は増加した.また,胎児,新生児脳MR画像の撮影法,解析法については,Advanced Bioimaging Support (ABiS)脳画像解析チュートリアルを受講し,現在プロトコルを開発中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗が遅れている要因は3つある. 1つ目は,令和4年度は,新型コロナウイルス感染症により,当院産婦人科においても医療体制が逼迫しており,臨床研究に割ける時間が極端に短かった. 2つ目は,胎児,新生児脳MR画像の撮影,解析方法についてプロトコルが未だ確立していないため,その方法について,放射線科と協議し,開発中である. 3つ目は,現在,「胎児発育不全に対するタダラフィル母体経口投与の有効性・安全性に関する臨床試験 プラセボ対照ランダム化比較第II相多施設共同研究」を行っており,本研究のリクルートが困難である.この研究については,あと約1年でリクルートが終了する見込みであり,その後,本研究のリクルートを積極的に行っていく. 上記要因はあるが,本研究は,当初より5か年計画であり,今後十分に本来の目的を達成できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,「胎児発育不全に対するタダラフィル母体経口投与の有効性・安全性に関する臨床試験 プラセボ対照ランダム化比較第II相多施設共同研究」のリクルートが終了し次第,令和5,6年度から積極的に本研究の新規リクルートを行っていく.解析データ項目については,タダラフィル内服前と内服後1週間に妊婦の平均動脈圧,心拍出量・子宮動脈の血流量と血管抵抗,指標・胎児推定体重 (超音波ドップラー法),血中Hb濃度・動脈血酸素飽和度を測定して子宮への酸素供給量も算出する.同時に子宮動脈,胎盤,胎児脳をMR画像撮影する (T1, T2, 拡散の強調画像).修正月齢0の新生児脳MR画像と修正月齢18, 36の神経発達指標 (新版K式発達検査2020版,修正36ヶ月ではADHDrsとPARS-TRを追加) は周産期母子医療センターの診療録から採取する.この内、胎児,新生児脳MRデータの撮影,解析方法のみが,プロトコルとして確立していないため,プロトコルの開発を行う.
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