研究課題/領域番号 |
22K16964
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56060:眼科学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸塚 清人 東京大学, 医学部附属病院, 病院診療医(出向) (90909970)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 糖尿病網膜症 / 微弱電流 / heat shock protein / 熱ショック蛋白 / 糖尿病黄斑浮腫 / 閾値下レーザー / マイクロパルスレーザー |
研究開始時の研究の概要 |
近年では、糖尿病黄斑浮腫(DME)に対してマイクロパルスを用いた閾値下レーザー(SMPL)が注目されており、その奏功機序として網膜色素上皮における熱ショック蛋白(HSP)の発現上昇が知られている。しかし、照射出力が高いと組織傷害を及ぼすため、より安全な治療としては課題も残されている。ここで、温熱刺激によるHSP発現をさらに増強する補因子として微弱電流(MES)の関与が知られており、これが網膜レーザー治療に活かせる可能性がある。 本研究では、従来設定よりも低出力のSMPLにMESを併用することによって、網膜に対してより安全であり、新たなDMEに対するレーザー戦略として応用できるかどうかを検証する。
|
研究実績の概要 |
現在の糖尿病黄斑浮腫(DME)の治療は抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)療法が主流だが、積極的な投与でも浮腫残存例が存在し、さらなる治療選択肢の拡大が課題となっている。近年ではマイクロパルスの閾値下レーザー(SMPL)を用いた低侵襲黄斑レーザーが注目されており、網膜色素上皮(RPE)細胞への適度な温熱刺激によって奏功機序のkey triggerとされる熱ショック 蛋白(HSP)の発現上昇が知られている。しかし、照射出力が高いと過度の温度上昇によりデリケートな黄斑部への組織傷害を及ぼすリスクもあるため、確立された治療としては課題も残されている。ここで、温熱刺激によるHSP発現をさらに増強する補因子として微弱電流(MES)が知られており、網膜レーザー治療に活かせる可能性がある。本研究では、SMPLにMESを併用することで、DMEに対する新たな低侵襲レーザー戦略として応用できるかどうかを検証する。 現時点では、まずSMPLを用いずにMESが及ぼす効果を検証している。既報を元にヒト培養RPE(ARPE)細胞を処理したDMEモデルを作成し、MES併用温熱刺激を施行した。HSP、VEGF並びに炎症性サイトカインの発現動態をqPCRにて検証した。MES併用温熱刺激を施行したDMEモデルでは未処理DMEモデルと比較してHSPの有意な上昇を認め、VEGF及び炎症性サイトカインの有意な低下を認めた。また、WB、ELISAを施行し、同様のモデルにおけるHSP、VEGFの蛋白レベルでの動態検証を行ったところ、qPCRと同様の結果が認められた。さらに、径上皮電気抵抗(TEER)にて、MES併用温熱刺激を施行したDMEモデルでは未処理DMEモデルと比較してTEERが有意に上昇した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ARPE細胞に対するMES刺激、温熱刺激(ヒーター)、MES併用温熱刺激の安全性評価として、LDH assayを用いて細胞障害がないことを確認した。次に、これらの3群の刺激においてHSPとVEGFの発現動態をmRNAレベルで検証した。結果として、MES刺激および温熱刺激ではコントロールと比較してHSP発現に有意な差が認められなかったものの、MES併用温熱刺激を施行した群ではHSPの発現上昇を認めた。また、VEGFに関しては、温熱刺激、およびMES併用温熱刺激を施行した群においてコントロール群と比較して有意な低下を認めた。 既報に準じてARPE細胞を用いたDMEモデルを作製。コントロールと比較してこのモデルではVEGFの有意な発現上昇が確認された。MES併用温熱刺激を行なった群では、温熱刺激、未処理、コントロール細胞と比較してHSPの上昇を認めた。また、温熱刺激および未処理の細胞と比較して、MES併用温熱刺激を行った群ではVEGFや炎症性サイトカインの減少を認めた。また、WBにてHSPの蛋白レベルの動態を評価し、MES併用温熱刺激を行ったDMEモデル細胞では、未処理、コントロール細胞と比較して、HSPが上昇した。VEGFを蛋白レベルで評価し、MES併用温熱刺激を行ったDME細胞では、未処理、コントロール細胞と比較して、VEGFが減少した。 次に、未処理のDMEモデル細胞ではコントロール細胞と比較してTEERの低下を認め、DMEモデルにおけるバリア機能の低下が示唆された。さらに、MES併用温熱刺激を行ったDMEモデル細胞では、未処理DMEモデル細胞と比較して、TEERの上昇を認め、バリア機能の改善効果が示唆された。これらの結果が得られ、概ね順調に経過していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
ARPE細胞に対してSMPL照射実験を行い、MES併用による効果を検証していく。まず細胞障害率を算出し安全性の確認を行うとともに、SMPL及びMES併用によるHSPの発現増強やVEGFや炎症性サイトカインの発現抑制効果の有無を調査する。また、TEERを測定しバリア機能評価も行う。さらに、細胞ダメージのリスクを軽減させるため、SMPLの出力を低下させてもMESの併用によって同様の効果が得られるかどうかについてもmRNAレベルと蛋白レベルで評価する。また、SMPLおよびMESによるストレス反応の相違についてHSPファミリー、ユビキチン化蛋白、さらに小胞体ストレス応答(Unfolded protein response, UPR)のマーカー蛋白の発現変化についても調査する。 次に、糖尿病モデルマウスを用いてMES併用温熱刺激、MES併用SMPLを行い、従来よりも低出力のSMPLでもMES併用によって効果が得られるかを検討する。臨床で用いられる出力設定方法(titration)および低出力のSMPL、およびMES併用SMPL(従来出力および低出力)の処理を行い、マウスの分離網膜を用いてHSPファミリーの発現増強をqPCRおよび蛋白レベルで評価する。さらに、VEGFやDMEに関与する炎症性サイトカインの発現変動についても検証を行う。網膜の免疫染色によってマクロファージ、細胞アポトー シスの変化を調べ、また、光干渉断層計を用いた網膜厚および網膜内構造についても評価を行なっていく。
|