研究課題/領域番号 |
22K17113
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分57050:補綴系歯学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
西尾 文子 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (00881294)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | PEEK / 金属代替材料 / 歯冠修復 |
研究開始時の研究の概要 |
PEEKは骨折時の固定用プレートに応用されるなど医療分野において金属代替材料として注目されている。申請者は高い材料加工性を持つPEEKに抗菌作用を担持させ、口腔清掃が困難な高齢者や要介護者の口腔内の環境を改善させることを想起した。本研究は、銀イオンの高い抗菌 作用を応用して、口腔内細菌に対して抗菌作用を示す新規抗菌性PEEK材を開発し、その強度や抗菌性を明らかにすることを目的とする。生体安全性や抗菌性に加えて接着強さ、機械的強度、表面性状、レントゲン不透過性を明らかにする。これにより、新規PEEK材の金属代替材料としてのみならず、口腔衛生不良が予測される患者への応用の可能性について検討する。
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研究実績の概要 |
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は高い熱安定性、耐加水分解性、曲げ強度、材料加工性、耐薬品性や生体安定性を有することから生体材料として注目されており、人工関節やインプラントに応用する研究が行われている。さらに、近年パラジウム等歯科用貴金属の価格高騰が新たな問題となっており、価格変動の少ない材料に対する需要が増している中、安定した供給が可能であるPEEKのような金属代替材料の解明は急務である。患者20名に対して歯冠色PEEK冠を装着し経過を観察した。その結果は良好であり歯冠補綴物の材料としてPEEKは有用である事が明らかになった(Clinical report of six-month follow-up after cementing PEEK crown on molars)。しかしながら、PEEK冠自体には従来の補綴物と同様に口腔内環境が劣悪な者において歯冠修復物と歯質の界面へのプラーク付着による二次齲蝕を引き起こす懸念がある。そこで、申請者はPEEKの高い材料加工性に着目し、材料に抗菌性を持たせることで付加価値をもつ歯冠修復物を開発することを着想した。抗菌剤には、熱安定性に優れ材料内に固定化可能である銀ナノ粒子を含有した抗菌性ゼオライトを用いた。ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩の一種でイオン交換能を有しておりその構造の一部を銀と置換することで抗菌性を有することが知られており、銀イオン含有ゼオライトはPEEKの融点である343度でも変性することがない抗菌剤である。抗菌成分を含有する歯冠修復材料の開発が成功すれば、健常者のみならず認知機能が低下した高齢者に対して定期的に行う必要のある口腔ケアの効果を増強させ、より口腔衛生状態を改善させることが可能となると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、銀ナノ粒子4%を混和したPEEK試験片と混和していないPEEK試験片をJIS Z 2801に準じた手法を用いてその抗菌性を調査した。PEEKの表面性状が菌の付着に影響を及ぼしていると考え、表面性状の分析を行い、銀ナノ粒子を混和した試験片のミュータンス菌に対する抗菌試験を行った。結果、射出成型した直後のPEEK試験片では抗菌性がみられなかったものの表層を1000glidのエメリーペーパーにて研磨したPEEK試験片では大腸菌、黄色ブドウ球菌のみならずStreptococcus mutansとCandida albicansに対しても十分な抗菌性を発揮することが明らかになった。実際に患者に用いることを想定した場合、咬合調整等表面研磨は必須であるため効果が得られると予測できる。 また、PEEKは既存の臨床にて用いられている研磨用バーを用いて研磨を行うことで0.2マイクロメートル以下の表面粗さを示すようになった。これは細菌付着やプラーク堆積、患者による舌感の観点から表面粗さ0.2マイクロメートル以下が望ましいとされているとされている数値である。そのため、PEEKは臨床にて用いるにあたり十分な表面の滑沢さを得られることが明らかになった。この内容は現在論文執筆中である。また、歯冠色PEEKのレントゲン不透過性についてもレントゲン撮影を行い、医科用CT装置にて撮影を行った際にハレーション等見られず誤飲誤嚥が起こった際には胸部CT撮影が望ましいことが明らかになったことを発表した(Radiopaque properties of polyetheretherketone crown at laboratory study)。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、追加で抗菌剤を含有したPEEK材を作製することことから始める。ISO178、JIS K7171に準じた短冊状の形態の試料を作製し、これを用いて三点曲げ試験を行う予定である。他の材料と比較することで補綴物としての使用の検討を行い、強度に問題がないことを確認する。また、接着力についても検討する予定である。抗菌剤を含有したPEEK材と臨床において広く用いられている接着性レジンセメントとの接着性やプライマーとの組み合わせやサンドブラストなどの表面処理での接着力の変化を剪断試験にて測定し最も適したものを模索する。これらの結果は可及的速やかに学会発表や論文として公表していく予定である。 また、歯冠色PEEKは既存の臨床にて用いられている研磨用バーを用いて研磨を行うことで患者に対して用いるために十分な表面の滑沢さを得られたことについての内容を論文にて発表する。さらに、臨床に用いる際に必要な情報があれば随時基礎実験を行い、発表していく予定である。
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