研究課題/領域番号 |
22K17181
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分57060:外科系歯学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 知帆 大阪大学, 大学院歯学研究科, 招へい教員 (30835856)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | iPS細胞 / 低ホスファターゼ症 / 象牙芽細胞 / アルカリホスファターゼ / ゲノム編集 / 歯周組織 |
研究開始時の研究の概要 |
低ホスファターゼ症(HPP)は組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNSALP)をコードする遺伝子に変異が起こり、その活性が低下することで骨の石灰化障害やそれに付随する全身症状を引き起こす遺伝性疾患である。主症状の一つである乳歯の早期脱落はセメント質形成不全が原因とされ、また、象牙質やエナメル質の形成不全、永久歯の早期脱落も報告されているが、いずれも詳細なメカニズムはわかっていない。 本研究は、HPP疾患特異的iPS細胞を歯髄幹細胞および歯根膜幹細胞へ分化誘導し、ゲノム編集技術を組み合わせることで、HPPによる病態が歯・歯周組織の形成および機能に異常をきたすメカニズムを明らかにする。
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研究実績の概要 |
低ホスファターゼ症(HPP)はアルカリホスファターゼ(ALP)活性の低下により骨の低石灰化などを特徴とする疾患で、重症度、発症年齢により複数の病型に分類される。ほとんどの病型で歯に症状を示すが、そのメカニズムは明らかではない。そこで我々はHPPにおける象牙芽細胞の機能異常を解明するため、HPP患者由来人工多能性幹細胞(iPSC)から象牙芽細胞様細胞(OD)への分化誘導を行い、比較検討を行った。 健常人(WT)由来iPSCから神経堤細胞(NCC)を経て分化させた間葉系幹細胞(MSC)をODへ分化誘導する方法を試みた。同じMSCから分化させた骨芽細胞様細胞(OB)と比較したところ、共にALP活性の増加と石灰化能を認めた。加えてWT-ODには、象牙質特異的な遺伝子発現の増加や、一方向に細胞突起を伸長させる特徴的な形態も確認された。 この象牙芽細胞分化誘導法を用いて周産期重症型HPP(Perinatal)患者由来iPSCおよび、この細胞にゲノム編集技術を用いて原因遺伝子を修復したiPSC(Rescued)、歯限局型HPPの病的バリアントを変異導入したiPSC(Odonto)を分化誘導を行った。Rescued-ODと比較し、Perinatal-、Odonto-ODはALP活性、石灰化能の低下、象牙芽細胞特異的遺伝子の発現の低下を認め、形態的には細胞突起の短縮も確認された。同時に、この形態異常の原因は必ずしも一つでない可能性も示唆された。細胞骨格タンパクであるNEFLは、その過剰発現による軸索の萎縮が報告されているが、今回の研究でOdonto-ODだけでNEFLの発現が有意に増加が見られており、さらにこれをノックダウンすることで細胞突起伸長能が改善する結果が得られた。これは、歯限局型HPPの象牙芽細胞突起に生じる形態的異常は、NEFLの過剰発現が原因で生じている可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定であった、歯髄幹細胞および歯根膜幹細胞への分化誘導法、セメント芽細胞分化誘導方法がまだ確立されておらず、当初の計画に比して進捗は遅れていると言わざるを得ない。 しかし、iPSCとゲノム編集技術を組み合わせ、周産期重症型HPP患者由来iPSC(Perinatal)、原因遺伝子を修復したiPSC(Rescued)、歯限局型HPPの病的バリアントを変異導入したiPSC(Odonto)はすでに得ることができており、今後の研究に必要な細胞の基盤は整えることができている。 また、今回樹立した象牙芽細胞分化誘導法においては、象牙芽細胞分化マーカーと言われている象牙質シアロリンタンパク(DSPP)やネスチン(NES)に加えて、細胞極性制御遺伝子であるMAPTやNEFLの発現だけでなく、象牙芽細胞に特徴的である、一方向に細胞突起を伸長する形態も確認することができた。骨芽細胞系への分化誘導との違いについて検討したことは、新しい取り組みであり、今後の歯に関する細胞の分化誘導を行うにあたって大きな進捗であると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
歯髄幹細胞への分化を行い、それを象牙芽細胞へと分化誘導して、象牙芽細胞に特徴的な遺伝子・タンパク質発現が見られるかを確認する。 また、今回の研究において、周産期重症型HPPと歯限局型HPPのから誘導された象牙芽細胞様細胞において、細胞極性の制御に関わる遺伝子であるNEFLにおいて発現に違いがあることが判明した。これまでにHPPの病態生理においては、主としてALP活性が関与していると思われていたが、本研究により、象牙質においては、ALP活性に非依存的な病態が存在する可能性が示唆された。HPPにおける歯科的異常を解明していく上で、これまでになかった視点であることから、今後より詳細に検討していく必要があると考えられる。
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