研究課題/領域番号 |
22K17348
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分58020:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含む
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
山形 優太朗 長崎大学, 熱帯医学研究所, 特任研究員 (70879410)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | RSウイルス / 中和抗体試験 / ウイルス合成 / 疫学 / 呼吸器感染症 |
研究開始時の研究の概要 |
RSVは乳幼児に感染し急性呼吸器疾患を引き起こすウイルスで、世界で年間6万人以上の5歳未満小児の死因となっているが、安全な治療薬やワクチンはまだ開発されていない。これらの開発やRSV感染症の疫学調査において、臨床検体の中和抗体価の測定は重要だが、測定に多くの時間と労力を要する問題点がある。そこで、レポーター発現組換え体RSVとレポーター活性の自動測定を用いて、従来よりも短時間で効率的なRSV中和抗体試験法を確立し、疫学調査検体を用いて定量性を検証する。さらに、新規組換え体RSVの設計と作出を行い、異なる血清型や遺伝子型に対応した中和抗体試験の実験系の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
1年目に開発した感染細胞ELISA中和抗体試験法は、臨床血清検体によるRSウイルス(RSV)の中和を検出できたが、大量の検体の解析にコストや時間が多くかかった。ハイスループットな中和抗体試験法の確立を目指し、レポーター発現rHRSVによる中和抗体試験法の条件検討を進めた。結果、赤色蛍光蛋白質mCherry発現rHRSVを用いて、コストと作業時間を大幅に削減した中和抗体試験法を確立した。この手法を用いて、「ニャチャン住民コホートを用いた小児呼吸器感染症研究」のプロジェクトの血清検体535検体のRSV中和抗体試験を行い、臨床血清検体によるrHRSVの中和を、蛍光シグナルの減衰として検出することに成功した。現在、全535検体の中和抗体試験が完了し、データの解析を進めている。また、超低コピー数のプラスミドベクターと、相同組換えを軽減した大腸菌株および30℃での培養を用いて、RSV全長ゲノムのBACではないプラスミドベクターへのクローニングに成功した。さらに、RSV全長ゲノムのP遺伝子とM遺伝子の間にmCherry遺伝子を挿入した変異体プラスミドベクターの作製にも成功した。このベクターと、BEIリソースから分与を受けたRSV蛋白質発現ベクターをBHK/T7-9細胞にトランスフェクションし、新たなプラスミドベクターによるmCherry発現組換えRSウイルスの合成を試みた。結果、A型由来のRSV全長ゲノムとmCherry遺伝子を有するmCherry発現組換えRSVの合成に成功し、培養に充分なウイルス力価および感染によるmCherry赤色蛍光の発現を検出した。また、「B型の抗原を有するレポーター発現組換えRSV」の合成を目指し、mCherry発現RSV全長ゲノム発現ベクターのG遺伝子とF遺伝子をB型由来配列に置換した変異体プラスミドベクターを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mCherry発現rHRSVを用いた新たな中和抗体試験法の確立により、感染細胞ELISA法と比べてコストや作業時間の大幅な削減に成功した。RSV陽性患者の臨床血清検体を用いて、新たな手法で臨床血清検体によるRSVの中和を検出できることを確認した。また、「ニャチャン住民コホートを用いた小児呼吸器感染症研究」のプロジェクトの血清検体のベトナムから日本への輸送がようやく完了した。この血清検体535検体を用いて、前述の新たな中和抗体試験法を行い、データを取得した。現在、データの解析を進めている。さらに、新たなプラスミドベクターと大腸菌株の使用により、「新規合成rHRSVを用いた新たなRSV中和抗体試験法の構築」のためのRSV全長ゲノムのプラスミドへのクローニングに成功した。mCherry遺伝子を挿入したRSV全長ゲノム変異体発現プラスミドベクターの作製にも成功した。これらのベクターとRSV蛋白質発現ベクターおよびBHK/T7-9細胞を用いたmCherry発現A型RSVの合成は、当初は条件検討に時間がかかることが想定された。しかし幸いにも、この実験系によるmCherry発現A型RSVの合成を確認できた。現在、組換えRSV合成実験の条件のさらなる最適化を進めている。以上の結果から、本研究の研究計画調書に記載した2年目の研究計画をほぼ達成し、研究に遅れが生じうる懸念材料である「サーベイランス検体の輸送の遅延」「RSV全長ゲノムのプラスミドベクターへのクローニング」を克服し、mCherry発現A型RSVの合成にも成功した。一方、B型由来の膜蛋白質配列を有するmCherry発現RSVの合成は、現時点ではまだ成功していない。そのため、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、「ニャチャン住民コホートを用いた小児呼吸器感染症研究」のプロジェクトの血清検体の中和抗体試験データの解析、及び、新たなプラスミドベクターによる組換えRSVの合成の条件検討、そしてその合成系を用いた「B型の抗原を有するレポーター発現組換えRSV」の合成を目指す。G遺伝子とF遺伝子をB型由来配列に置換したmCherry発現RSウイルス全長ゲノム発現ベクターを用いてRSV合成を試みた実験では、トランスフェクションしたBHK/T7-9細胞内でのmCherry発現が、A型のものと比べて著しく減衰しており、また培養上清からRSV力価を全く検出できなかった。現在、原因と考えられる配列に変異を導入し、組換えRSVの合成効率の改善を試みた、新たなプラスミドベクターの作製を進めている。「B型の抗原を有するレポーター発現組換えRSV」の合成に成功した後は、mCherry発現A型RSVとの抗原性の比較や検証を行う予定である。市販または分与されているRSVのコントロール中和血清のうち、A型とB型のRSVで異なる中和抗体価になることが報告されているものを使用し、新規組換えRSVにおいても同様に異なる中和抗体価を検出できるかを検証し、本研究の最終目標である「異なる血清型に対応した中和抗体試験用のレポーター発現組換えRSVの確立」を目指す。また、2年目後半まで充分な研究データを得られなったため、2年目は本研究成果の論文投稿や学会発表を行えなかった。3年目では、1~2年目の研究を通して得られた研究成果を、論文や学会での発表を通して積極的に外部へと発信することを目指す。このため、学会への参加や論文の投稿のための科研費の使用を、1~2年目よりも多くの金額で使用する予定である。
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