研究課題
若手研究
カルバペネム系抗菌薬への薬剤耐性はサイレントパンデミックとして国際的な問題と認識され、感染症の実態解明は緊急課題である。海外とカルバペネム耐性遺伝子の分布が異なる本邦においては、本邦独自の情報が必要であると考えられる。私たちは日本国内におけるカルバペネム耐性菌の分布、感染症による死亡率、薬剤感受性を明らかにしてきたが、菌種が多岐にわたるため菌種毎のデータが不足しており、重大なデータの欠損であると考えた。本研究では継続的に症例を集積し、菌種毎に解析することでカルバペネム耐性菌感染症が臨床に与えるインパクトを明らかにする。さらに非耐性菌患者と比較し耐性化自体が患者に及ぼす影響の大きさを解明する。
日本全国の13施設からカルバペネム耐性菌の臨床情報と菌株、およびコントロールとなるカルバぺネム感受性菌の臨床情報を収集した。2024年3月31日時点で1304株、1023症例の臨床情報の収集を完了した。2022年10月には日本感染症学会東日本地方会においてカルバペネム耐性(CR)および感性(CS)緑膿菌の予後比較に関する発表を行った。CR感染症の内訳は血流感染症11.4%/11.4%、呼吸器感染症42.9%/45.7%、尿路感染症17.1%/25.2%、創部感染症11.4%/17.1%、胆管炎5.7%/2.9%、膿胸5.7%/2.9%であった。30日死亡率はCR/CS群で14.3%/8.6%、死亡例を除いた検出後の入院期間の中央値は39日/33.5日であった。CR緑膿菌感染例はCS緑膿菌感染例と比較して死亡率が高く、入院期間が長い傾向にあることを明らかにした。2023年には米国感染症学会(IDWeek)においてがん患者と非がん患者における予後の比較を行い、がん患者においてはcomposite outcome(死亡、臨床経過の増悪、ICU入室、気管挿管、透析)の割合が高いことを明らかにした。またStenotrophomonas maltophiliaの解析を行い、呼吸器にcolonizationする割合が高く、感染症例では保菌例と比較し死亡率が有意に高いことを明らかにした。スルファメトキサゾール-トリメトプリムは依然として有効であるが、レボフロキサシンに対する感受性は低下していた。菌株は遺伝的に非常に多様であり、環境由来である可能性が高いと考えられた。国際英文誌への投稿を行い、2024年度でのアクセプトを目指す。
2: おおむね順調に進展している
日本全国の13施設からカルバペネム耐性菌の臨床情報と菌株、およびコントロールとなるカルバぺネム感受性菌の臨床情報を収集した。2024年3月31日時点で1304株、1023症例の臨床情報の収集を完了した。またカルバぺネム耐性菌の遺伝子解析を進めたが、2023年度は未発表であるため2024年度に発表予定である。
2024年度はこれまで蓄積してきたデータをもとに、腸内細菌目細菌、ブドウ糖非発酵菌についての患者背景、感受性、臨床的予後をまとめ、感染群と保菌群における差異を見出す。Stenotrophomonas maltophiliaについて臨床的、分子疫学的解析を行い、論文化し国際誌でのアクセプトを目指す。免疫不全者におけるカルバペネム耐性菌感染症とカルバペネム感性菌感染症の予後を比較解析し、カルバペネム耐性菌感染症が臨床的に与えるインパクトを明らかにする。本データについても論文投稿の準備を進める。
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