研究課題/領域番号 |
22K17785
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
林地 のぞみ 順天堂大学, 医学部, 特任助教 (80772433)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2026年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | 糖転移酵素 / 糖鎖修飾 / 骨格筋 / 加齢 / 筋萎縮 / 高齢化 / 筋萎縮疾患 / サルコペニア / Fucosyltransferase |
研究開始時の研究の概要 |
加齢により骨格筋量は減少し、サルコペニアといった筋萎縮疾患を発症する。しかし、その分子機序は様々な要因が提示されているが解明には至っていない。申請者は、Fucosyltransferase 8 : Fut8欠損マウスは若齢期から筋委縮を呈すること加齢個体ではFut8の発現が変化しコアフコース量が低下することに着目し、Fut8によりコアフコースを形成するタンパクが骨格筋量を調整する因子のひとつではないかと起草した。 本研究を遂行し加齢による骨格筋の変化と糖鎖修飾の変化を明らかとすることでサルコペニアといった筋萎縮疾患の新しい治療法の開発を試みる。
|
研究実績の概要 |
骨格筋は運動機能を司る器官だけでなく、代謝など生体の恒常性の維持に重要な期間である。また、筋肉量の維持は健康寿命やがんの生存期間の有意な相関があることが報告されており、健康を保つためには骨格筋量そのものを保つことが重要である 。骨格筋の萎縮をきたす疾患には重症の糖尿病、心疾患、末期のエイズ、筋ジストロフィー、サルコペニア、廃用性といった様々なタイプが存在する。65歳以上の高齢者が総人口の28.4%を占める超高齢化社会を迎えた日本において、筋萎縮による要介護者の増加や医療費の削減のために筋萎縮のメカニズムを解明し治療法を確立することは喫緊の課題である。そこで、申請者は糖転移酵素Fucosyltransferase8 (Fut8) に注目した加齢による筋萎縮のメカニズムを解明することで有効な治療法の確立を目指すこととした。Fut8はフコースをN結合型糖鎖のGlcNAcにα1,6結合で結合する反応を触媒し、コアフコースと呼ばれる独特な糖鎖構造をつくることのできる唯一の糖転移酵素である。成体においてFut8は脳神経やガンにおいて特に発現が高いが、全身にユビキタスに発現している。Fut8が欠失したFut8-/-マウスは胎生18.5日齢においてはFut8+/+や+/-と比較して体重や見た目に違いは認められないが、出生直後にその多くが著しい発育不全を示し、90%以上の産仔が3週齢までに死亡する。生存した産仔も、体躯が小さく認知機能などに異常がおこることが報告されている。2023年に申請者はゼブラフィッシュを用いてFut8の減少が筋線維構造の乱れや哺乳類の腱に相当するマイオセプタとよばれる構造物に異常が現れることを報告した(Cells. 2023)。これら結果は、Fut8が骨格筋の発生に関与していることを世界で初めて報告した。これまでの結果は第8・9回日本筋学会学術集会で発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの骨格筋においてFut8の遺伝子発現は加齢にと共に僅かに上昇するが、コアフコースが付加したタンパク質量は逆に低下することを明らかとしてきた。Fut8-/-マウスの骨格筋は出生直後から萎縮しており、筋線維径も筋力も有意に低下している。6カ月齢や1年齢の加齢Fut8-/-マウスの骨格筋は、筋最大周囲径がFut8+/+マウスと比較して60%程度まで萎縮しており筋萎縮が加齢により進行していた。 Fut8は、脳神経系において発現が高いが全身にユビキタスに発現している糖転移酵素である。そのため全身でFut8が欠損するFut8-/-マウスでは骨格筋における作用が不明瞭である。そこで骨格筋特異的CreドライバーマウスのHASマウスとFut8のfloxマウスを交配させFut8 f/f HASマウスの作出を行い、機能の解明を試みた。しかしながら、Fut8 flox/flox HASマウスの骨格筋の切断効率を調べたところ60%以下と完全な骨格筋特異的Fut8欠失個体はできなかった。そして、出生直後や8週齢において前脛骨筋では筋湿重量や組織的変化は認められなかった。一方、6カ月齢や1年齢のFut8 flox/flox HASマウスの前脛骨筋は萎縮し、辺縁に顆粒をもつ穴が複数個所観察された。また、Foot Printにより歩行を解析したところ、歩幅の距離の短縮、間隔の不均一性、まっすぐにあるけない等の表現型が現れた。これら表現型は、サルコペニアといった加齢による筋萎縮により認められる。以上のことから、骨格筋におけるコアフコースの減少は加齢による筋萎縮と関連がある可能性が示唆された。また、Fut8の完全な欠損ではなく低下だけで加齢骨格筋に認められる表現型が現れたことからFut8は加齢骨格筋において重要な因子であることを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
Fut8-/-マウスの骨格筋は、筋萎縮のみならず筋衛星細胞数の有意な減少、筋力の低下などを示す。これまでに、コアフコースの欠失による加齢骨格筋の萎縮がおこるメカニズムの探索をおこない、これらを引きおこす因子としてXを同定した。最初に同定した因子Xについてさらに詳細な解析を行う。因子Xは分泌タンパク質である。分泌タンパク質の多くはN型糖鎖修飾部位をもち、コアフコースを有する可能性がある。因子Xにコアフコースが修飾されているかを確認するために具体的な手技として、Aleuria aurantia Lectin共免疫沈降もしくはMS解析を用いて行う。次に、コアフコースの有無でタンパク質の構造に変化がおこるか3Dモデルを用いた計算ソフトを用いて予測を行う。最後に、3Dモデルで推測された部位が、コアフコースの有無でシグナルが変化するかルシフェラーゼアッセイなどの分子生物学的手法を用いて評価をおこなう。また、コアフコースの有無で分泌タンパク質の機能に差がでるか、Fut8+/+と-/-マウスの細胞を用いてアデノ不随ウイルスによる感染によりコアフコースが付加された因子Xとコアフコースが付加しない因子Xの比較を行う。 次に、コアフコースを増加させるような因子の探索を行う。Fut8は全身にユビキタスに発現しているが、発現の増減はあまりおこらない。過去の報告からも、Fut8の発現の上昇させる分子はほとんど存在せず、存在してもフェンタニルといった指定薬物であり加齢の治療に適してはいない。そこで文部科学省科学研究費学術変革領域研究先端モデル動物事件プラットフォーム分子プロファイリングといった公的な分子探索の支援を利用することを予定している。
|