研究課題/領域番号 |
22K17820
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
杉山 悠真 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 研究所 ジェロサイエンス研究センター, 研究員 (30869384)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
中途終了 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
|
キーワード | 遺伝子クラスター / ATAC-seq / 細胞老化の進行度 / SASP因子の発現動態 |
研究開始時の研究の概要 |
老化細胞は加齢にともない組織内に蓄積し、様々な炎症性因子の分泌(SASP)によって組織や個体の老化を促すが、細胞老化の進行過程でSASPがどのように誘導され、推移していくのかは明らかになっていない。申請者らは、細胞老化の進行度をモニター可能なモデルマウスを作出し、IL-1βなど一部のSASP因子の特徴的な発現動態を見出した。本研究では、進行段階の異なる老化細胞集団に対する網羅的遺伝子発現解析を起点とし、細胞老化の進行過程における個々のSASP因子の発現動態とその分子基盤の解明を目指す。
|
研究実績の概要 |
初年度の主な成果は、RNA-seqの実施によって得られたMEF細胞老化の進行に付随した網羅的な遺伝子発現情報と、その解析から特徴的な発現動態を示す遺伝子群を抽出できた点である。具体的には、細胞老化の各進行段階にある集団の遺伝子発現プロファイルを比較することで、細胞老化の初期段階でのみ高発現する85遺伝子を含む遺伝子集団を見出し、その中にSASP因子が多数含まれることがわかった。また一部のSASP因子は染色体上で近接しているものもあり(遺伝子クラスター)、細胞老化の進行に付随した共通の制御機構の存在が示唆された。今後は転写制御メカニズムを解明するために、計画に沿って転写制御因子やエンハンサー領域を同定していく。 また、次年度の前半に予定していたエピジェネティックな解析の一部に着手できた点も成果と言える。具体的にはATAC-seqを実施し、RNA-seqで着目したSASP因子が高発現する初期段階の老化細胞においてオープンになる(凝集度の低下する)クロマチン領域をゲノムワイドに抽出できた。この情報をもとに、モチーフ解析やChIP-AtlasによるEnrichment解析を実施することで、転写制御因子の候補分子を選出できると考えている。 さらに、今後MEFで着目したSASP因子の発現動態やその生理的意義を生体組織で検証するために、予備的な検討として、FACSを用いた脾臓リンパ球の評価を実施した。その結果、加齢に伴うhCD2陽性T細胞(≒p16陽性T細胞)の増加が確認できたため、抗hCD2抗体に天然毒素サポリンを結合させたイムノトキシンを作製し、この細胞集団の生体内での除去に挑戦した。作成したイムノトキシンを当該モデルマウスに投与したところ、hCD2陽性T細胞が除去され、免疫老化の表現型の一部に緩和傾向がみられたため、論文として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず初年度の計画の主軸とした、当該モデルマウス由来のMEFを用いた「細胞老化進行にともなうSASP因子の発現動態評価」はRNA-seqの実施とその解析によって達成できたと考えている。実際にこの網羅的遺伝子発現解析により、興味深い発現動態を示す85の遺伝子を抽出し、その中には染色体上で遺伝子クラスターを形成するSASP因子も確認できた。これらのSASP因子は細胞老化の進行に付随した共通の転写制御を受けている可能性がある。 また本来の計画では次年度の実施予定だったが、RNA-seqで着目したSASP因子の発現制御機構の解明にも着手し、転写制御因子やエンハンサー領域の候補を絞り込むためにATAC-seqを実施した。これにより、重要な手掛かりとなり得るゲノムワイドな情報が得られた。 さらに、着目したSASP因子の発現動態や生理的意義を生体内で検証してくための予備的な評価として実施したFACSにおいて、加齢に伴うhCD2陽性(p16陽性)T細胞の増加を確認した。またこの細胞集団は、抗hCD2抗体に天然毒素サポリンを結合させたイムノトキシンの投与により生体内で除去され、同時に免疫老化の表現型の一部に対する緩和傾向が確認されたので、これらの知見を論文として投稿し、受理された(Experimental Gerontology, 2023)。 以上の進捗から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針はおおむね当初の計画通りに、次の二軸で展開していく。
■転写制御因子の探索と同定 初年度に実施したATAC-seqの情報をもとに、モチーフ解析・ChIP-AtlasによるEnrichment解析などを実施し、さらにRNA-seqの結果と合わせて転写制御因子の候補を絞り込んでいく。絞り込んだ候補については、MEFでのノックダウンを実施し、SASP因子の遺伝子クラスターの発現動態に及ぼす影響を評価することで、責任分子であるかどうか判断する。 ■着目したSASP因子の発現動態を生体組織サンプルで評価 RNA-seqで着目した特徴的な発現動態を示すSASP因子について、老齢マウスの組織での発現を評価する。具体的には、セルソーターを用いてhCD2の発現レベル別に細胞を分取することで、細胞老化の進行段階別のtotal RNAを確保し、RT-qPCRにより発現動態を評価する。標的組織は、加齢とともにhCD2の発現が確認できている脾臓、皮膚、肝臓などを優先的に解析する。
|