研究課題/領域番号 |
22K18023
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上田 紗也子 名古屋大学, 環境学研究科, 特任助教 (00612706)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 黒色炭素 / 大気エアロゾル / アイスコア / 化石燃料 / エアロゾル / 燃焼活動 / 酸化鉄 |
研究開始時の研究の概要 |
化石燃料の燃焼やバイオマスバーニングなどの燃焼活動では、黒色炭素などの光吸収性を持つ物質が大気エアロゾル粒子として排出される。産業革命以降の人間活動はとりわけ多くの燃焼活動由来のエアロゾル粒子を排出し、地球環境に大きな変化を与えてきた。本研究では、グリーンランドで掘削された産業革命前から現代に相当するアイスコアに対し、季節別・粒径別の黒色炭素粒子濃度測定と電子顕微鏡による水不溶性物質の観察を行う。近代の気候変動において人間活動が及ぼしてきた影響を正確に分別するための基礎となる、極域に沈着した燃焼起源エアロゾル粒子の発生源と輸送過程の詳細な評価に使用できる観測データを取得する。
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研究実績の概要 |
大気エアロゾル粒子の一種である黒色炭素(BC)は、化石燃料の燃焼やバイオマスバーニングによって排出される、強い光吸収性を持つ物質である。産業革命以降の人間活動は特に多くの燃焼活動由来のエアロゾル粒子を排出し、地球環境に大きな変化を与えてきた。地球環境の予測を高度化する上で、人間活動の影響の少ない産業革命前から現代に至る大気環境の変動を正確に理解することは重要である。2021年6月、北海道大学のグループによってグリーンランドの拠点・SEドームで約200年分に相当するアイスコアが掘削され、現在、種々のエアロゾル化学種等の分析が進められている。本研究では、一年を四季に分けたこのアイスコア試料について、Single-particle soot photometer (SP2)による2世紀分のBC濃度の測定と、燃焼起源エアロゾルに着眼した透過型電子顕微鏡(TEM)による水不溶性物質の観察を進めている。該当年は、アイスコアを共有する北海道大学の研究グループとの交流・打ち合わせを行い、使用するアイスコアの区画や、試料作成の方法、名古屋大学への輸送、実験の段取りについて確認を行った。本分析用の試料は、北海道大学の有機物を測定するグループが処理・利用するコアを融解後に分注した水試料として頂くことになり、処理された順に試料を送って頂いている。名古屋大学では、アイスコアの融解試料から粒子を取り出すネブライザーやSP2で構成されるBC測定システムの準備、キャリブレーション、システムへのTEM用サンプラーの設置を行い、BC濃度測定とTEM試料の作成が行える状況を整えた。1月より、一部のBC濃度測定を進めており、SE-Domeのアイスコア試料が十分に検出可能な範囲であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
必要備品の調達やキャリブレーションを終えるのに時間を要したため、計画より遅れている。現在はBC濃度を測定できる状況は整っており、2023年度は順調に測定を進められている。初年度は、SEドームのアイスコアを掘削し管理されている北海道大学の飯塚芳徳氏らとコアの分配・処理方法について打ち合わせを行ってきた。アイスコア試料は一試料ごとの切り出しやコンタミ処理など、低温室で手間のかかる作業が必要である。また、4季×200年分の約800試料を安定した方法で分析する必要があり、共有者と連携して進めてきた。SP2測定では、名古屋大学の大畑祥氏に技術的な協力を頂き、SP2の通常の設計より大きいサイズのBCまで測定することが可能な検出器の使用(Wide-range SP2)でBC濃度の粒径別濃度測定を行う。融解試料からBCを粒子化させて取り出すネブライザーに使用するポンプの納品が遅れたため、BC濃度測定に関するキャリブレーションを終えたのが1月になったが、その後、一部のアイスコア試料で測定を実施している。分注作業に関するブランクの試料のBC測定から、作業ブランク中が十分に低いこと、アイスコアのBC濃度が十分検出できる範囲であることを確認した。一方、本研究では、これまでにない取り組みとして、同試料から、TEM試料の捕集を行った。その結果、不溶性の沈殿物が融解試料内で発生した可能性が示唆された。現在、この現象のBC測定への影響評価や改善方法について検証を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
BC濃度の測定できる状況は整っており、引き続き、北海道大学と協力し、約2年かけて約200年分のアイスコアの処理と分析を進める予定である。年度明けに北海道大学から約150試料受け取り、現在分析を進めている。測定されたBC濃度を基にフラックスの計算も行い、先行研究による近年の極域観測での測定値や、アイスコアの測定値と比較することで、SE-Domeの観測結果の代表性を検証する。また、BC濃度の測定結果について、既に気候モデルの研究者らにも一部の情報を提供しており、測定と並行しながらモデルとの比較検証も進めていく予定である。採取したTEM試料については、名古屋大学の超高圧電子顕微鏡施設の透過型電子顕微鏡を使用して、徐々に分析を行っている。初期に作成した試料の観察から、沈殿物と見られる水不溶性粒子が想定より多く観られたため、BCに焦点を当てた粒子観察が現状の方法では難しいことがわかった。現在、試料作成における問題点を明確にした段階で、いくつかの解決策を試している。今後、SP2による測定と並行し、TEM観察において明らかとなった問題を改善した上で、BC濃度の変動と、種々の燃焼起源エアロゾル粒子の輸送・変動との関係性を明確にしていく。
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